労働問題

従業員との最後の手続きである離職票の交付、離職理由の書き方等について弁護士が解説します。

従業員が退職するとき、あるいは従業員を解雇したとき、その本人が請求してきた際には「離職票」を発行しなければなりません。
しかし、この離職票をめぐって従業員と会社との間でトラブルが発生することも少なくありません。離職理由の書き方によって元従業員は受け取ることができる失業給付の基本手当の給付日数や支給開始日等が変わるので「会社都合退職にしてほしい」という要望の場合や、他方では再就職を考慮して「自己都合退職にしてほしい」という要望のこともあります。
そうした失業給付の受給手続きにおける離職票をめぐるトラブルを未然に防ぐため、離職票の書き方やトラブルの対処法等について解説をしていきます。人事担当者は必見の内容となっています。

離職票とは

離職票とは

正式名称は「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれる書類のことを言います。会社を退職した方が失業給付金(基本手当)を受給するためにハローワークに提出する必要がある書類で、この書類によって、離職したことを公的に証明することができます。雇用保険法に基づき会社は労働者の求めに応じて発行しなければなりません。

退職証明書

退職証明書は、会社を退職していることを証明するための書類です。利用目的は、離職票がまだ手元にない場合に、その代わりとして失業給付や国民健康保険の手続きに使用されることが多く、退職者の転職先が決まっている場合には、その事業者から事実確認のために退職証明書の提出を求められることもあります。
ハローワークなどへ提出する書類とは異なり、退職者本人から希望があった場合に労働基準法第22条に則り、企業側に発行義務が定められているため、公文書としての扱いにはなりません

雇用保険被保険者証

雇用保険に加入すると、ハローワークから事業主を通じて雇用保険被保険者証が交付されます。雇用保険被保険者証は、雇用保険に加入していることを証明するものです。転職すると、転職先で、雇用保険の再加入の手続きを取ってもらうことになりますが、この際、原則として以前の雇用保険と同じ被保険者番号にて再加入の申請をしてもらうことになります。そのため、転職先で、被保険者番号の確認を目的として、雇用保険被保険者証の提出が求められることが多いです。

離職票が必要になるタイミング

離職票は文字通り離職の際に必要となるのですが、必ずしも全員に発行するものではありません。では離職票が必要となるタイミングはどのような場合なのでしょうか

■雇用保険の失業給付を受けたいとき

退職をした際に、次の就職先が決まっていない場合には、しばらくの生活資金が必要になります。このように、いつでも就業できる能力はあるが次の就職先がきまっていないという一定の要件を満たした場合には失業保険を受けることができます。
そしてこの雇用保険の失業給付を申請する際には、労働者は、離職したことを示すために離職票を本人確認書類(身分証明書など)とともに提出し、雇用保険受給資格者証の発行を受け、失業保険認定日を確定させて失業保険を受給するという流れになります。

■年金や健康保険の手続きをするとき

退職した際には国民健康保険や厚生年金保険の手続きを行う必要があり、それらを退職者自身が行う場合があります。そのときには、全国健康保険協会や日本年金機構に対し、資格喪失証明書や離職を示す必要があります。

離職理由によって変わるもの

失業給付

失業給付は、失業理由によって受け取ることができる日数や受け取り開始日が異なります。「特定受給資格者」や「特定理由離職者」と判断されるとこれらの優遇をうけることができます。
これらの該当するかどうかを判断するのはハローワークですが、その判断の指標となるものの一つが離職票に記載されている離職理由です。もちろんあくまでも判断材料のひとつなので、離職理由だけで決定はされませんが、大きく影響を与える要素にはなります。

・特定受給資格者
会社の倒産や解雇等の理由によって再就職の準備をする時間的な余裕がなく、離職を余儀なくされた方、要するにもっぱら雇用者の責任で退職となったと評価できる人のことをいいます。

・特定理由離職者
有期雇用契約者が契約の更新されないことによって失職した方や、病気や怪我、妊娠出産、介護などにより離職した方、要するにいわゆる「雇止め」の場合と「正当な理由がある自己都合退職による離職」をした場合です。

・失業手当の内容
特定受給資格者や特定理由離職者の一部については受給資格要件や給付日数などの面から手厚い保護をうけることができます。

(1)受給資格
離職以前の1年間に6ヶ月以上被保険者期間があることが必要です。
 ←特定受給資格者や特定理由離職者の一部に該当しない場合には離職以前の2年間に12ヶ月以上の被保険者期間が必要であるとされています。

(2)所定給付日数
特定受給資格者や特定理由離職者の一部は、年齢によって90〜330日となっています。
 ←期間満了退職や自己都合退職等の場合には、被保険者期間に応じて受給期間は90〜150日となっています。

詳しい日数については、厚生労働省都道府県労働局・ハローワークのHPに記載されています。

(3)給付制限期間
特定受給資格者や特定理由離職者の一部は、給付制限期間はなく、待機期間の7日間の翌日から開始されます。
 ←特定受給資格者や特定理由離職者の一部以外の場合には、7日間の待機期間に加えて、給付制限期間(2020年9月30日までに離職した場合には3ヶ月、2020年10月1日以降に離職した場合には2ヶ月(ただし5年間のうちに2回まで))を経て失業手当の支給が開始されます。

国民年金保険の保険料

特定受給資格者や特定理由離職者のような会社都合退職や正当な理由による自己都合退職の場合には、保険料が軽減されます。
 ←それ以外の場合には、通常の保険料を納付しなければなりません。

離職票をもらえる人とは

離職票の正式名称「雇用保険被保険者離職票」からもわかるように、離職票の対象となるのは、雇用保険に加入していた従業員に限定されます。正社員やパート、などの雇用形態は問わず、雇用保険に加入していたか否かをもって判断します。

離職票の交付の流れ

1)従業員から会社へ依頼

離職票は、従業員から交付を求められて発行手続きをとります。
もっとも2に記載のとおり、期間制限があるので、会社から従業員に対して、離職票が必要かどうか確認することが必要です。また59歳以上の社員が退職する場合には、本人の希望にかかわらず、離職票の交付義務がありますので注意しましょう。

2)離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届の作成

離職票を交付するためには、会社が従業員が雇用保険の被保険者資格を喪失した日の翌日から10日以内にハローワークに離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届、日本年金機構に社会保険被保険者資格喪失届を提出する資格喪失手続きを行う必要があります。

離職証明書とは、離職理由や在職中の給与額などを記載するものです。失業保険の額は従業員の離職理由や在職中ん給与の額によってことなるため、その内容をハローワークに伝える必要があるのです。

雇用保険被保険者資格喪失届とは、従業員が退職して雇用保険加入者だった者がその被保険者ではなくなったことを会社が申請者としてハローワークに届け出るための文書です。

会社はこれらの書類の記入が終わったら退職日前に退職者に離職証明書の内容を確認してもらい、間違いがなければ署名・押印をしてもらいましょう。
退職前に有給を取得する社員も多いので、会社としてはならうべく早めに行動し、確実に離職証明書の内容を確認してもらえるように手配をしておきましょう。最近では電子証明書を添えることによって、電子申請によって離職票の交付申請書も提出することができるようになっています。

3)離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークに提出

従業員が雇用保険の被保険者資格を喪失した日の翌日から10日以内にハローワークに離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届を提出する必要があります。
ここで遅滞が生じると、退職者の失業保険の受給に影響が出てしまうことがありますので、なるべくはやめに行動するよう心がけましょう。

提出の際には、
・労働者名簿
・出勤簿(タイムカード)
・賃金台帳
・離職理由が確認できる書類(退職届、就業規則、取締役会議事録等)
を持参するようにしましょう。

4)ハローワークから会社に離職票が交付されます

離職証明書、雇用保険被保険者資格喪失届の内容に誤りがないか審査したのち、ハローワークが会社に対して、離職票を交付します。
離職票には離職票1と離職票2という2つの書式があります。
離職票1は個人番号(マイナンバー)、金融機関口座の記載欄、資格取得年月日、離職年月日、喪失原因などを記載します。
離職票2は離職日以前の賃金支払状況、離職理由などを記載します。

5)会社から従業員に交付

会社がハローワークから受け取った離職票から企業の控えを抜いた2枚を従業員に交付します。
離職票を従業員に渡すことについて何日以内に、という期間制限は法律上ありません。しかし、これが遅滞してしまうと元従業員が失業保険を受け取ることができず、会社との間でトラブルが怒ってしまうことがあります。すみやかに郵送するように心がけましょう。
会社は、離職した従業員からの求めに応じてこれらの措置をとる義務があることを覚えておきましょう。

離職票の書き方

離職票には以下の記載欄があります。

1)被保険者番号
2)事業所番号
3)離職者氏名
4)離職年月日
5)事業所・事業主に関する欄
6)離職者の住所または居所
7)離職理由欄
8)被保険者期間算定対象期間
9)8の日数における賃金支払基礎日数
10)賃金支払対象期間
11)上記10の基礎日数
12)賃金額
13)備考
14)賃金に関する特記事項
15)署名捺印
16)離職者本人の判断

このうち特に問題になる離職理由について解説します。
離職証明書の離職理由は大きくわけて6種類あります。会社はその中でもっとも相応しいものを選びましょう。

■事業所の倒産によるもの

①倒産手続き開始、手形取引停止による離職
②事業所の廃止または事業活動停止後事業再開の見込みがないため離職

■定年によるもの

■労働契約期間満了等によるもの

①採用または定年後の再雇用等にあらかじめ定められた雇用期限到来による離職
② 労働契約期間満了による離職
③早期退職優遇制度、選択定年制度等により離職
④移籍出向

■事業主からの働きかけによるもの

①解雇(重責解雇を除く)
②重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)
③ 希望退職の募集または退職勧奨

■労働者の判断によるもの(職場事情)

①労働条件に係る問題(賃金低下、賃金遅配、時間外労働、採用条件との相違等)があったと労働者が判断したため
②事業主または他の労働者から就業環境が著しく害されるような言動(故意の排斥、嫌がらせ等)を受けたと労働者が判断したため
③妊娠、出産、育児休業、介護休業等に係る問題(休業等の申出拒否、妊娠、出産、休業等を理由とする不利益取扱い)があったと労働者が判断したため
④事業所での大規模な人員整理があったことを考慮した離職
⑤職種転換等に適応することが困難であったため
⑥事業所移転による通勤困難となった(なる)ため
⑦その他

■労働者の判断によるもの(労働者事情)

労働者の個人的な事情による退職

■その他

トラブル回避方法

これらのうちのどれを選択するかという点について大きなトラブルが発生することがあります。
自己都合退職なのか、会社都合退職かによって、労働者に対する失業給付の手厚さが異なるため、関心が一番大きいところなのです。
こうした退職についてのトラブルを回避するためには、何よりも従業員との話し合いが大切です。
とりわけ退職勧奨や解雇の場合には、会社の対応が適切なものであったのか、が争われることが非常に多いです。
退職勧奨が過剰で無理矢理辞めさせられた、解雇は不当な処分だったなどと退職後相当期間経過した後に争われることも少なくありません。
従業員との間で事前に退職理由についてはすり合わせをしておくことが必要です。
話し合いがうまくいかずに無理に手続きをおし進めてしまうと、のちのち揉め事になってしまったときの会社の経済的損失も大きいですし、その揉め事にさかなければならない労力も膨大なものになります。
従業員の理解が得られない場合には、できるだけ早い段階で顧問弁護士等に相談をして対処方法について相談をしておくことをおすすめします。

さいごに

離職票は従業員との間の最後の手続きです。最後の最後トラブルになることがないように、離職理由についてしっかり協議をすること、さらに離職票についてのタイムスケジュール等をしっかり把握しておくこと、が大切です。離職理由についてトラブルになりそうな時には、会社のちからだけでなんとかしようとするのではなく、弁護士に相談をして、適切な対応をしていきましょう。

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