労働問題

嘱託とは?嘱託社員について、契約社員や業務委託との違いを含めて弁護士が解説

1 嘱託とは

    嘱託とは、本来の日本語としての意味は仕事を頼んで任せることをいいますが、企業において「嘱託」という場合には「嘱託社員」のことを指すのが一般的です。

  ただし、労働基準法労働契約法等の法律上、嘱託社員の定義があるわけではありません。そのため、嘱託社員が会社とどのような関係にあるのかは、会社ごとによって異なりますし、人によっても嘱託社員という言葉の意味合いが異なっていることがよくあります。

  この記事では、嘱託社員という場合に会社とどのような関係にある人のことを指すのが一般的であるのか等を踏まえて、嘱託社員について、契約社員業務委託者等との違いを説明していきます。

  言われてみれば嘱託社員って他の社員と何が違うんだろうと感じた経営者の方や法務担当者の方はご参考ください。なお、会社によっては派遣社員に対して「嘱託」という呼称を用いる場合もあるようですが、派遣社員については「派遣」等と呼称するのが通常であるためこの記事では派遣労働者の解説は割愛します。

2 嘱託社員とは

  嘱託社員は、正社員ではない従業員を何らかの基準で区別する呼び方です。法律上の定義がないため、ここで述べる定義も曖昧になりますが、基本的には、契約社員(期間の定めのある労働契約による従業員)の一種と考えてもらって良いと思います。

  嘱託社員は有期雇用契約の契約社員の一種ということができますが、通常の契約社員と異なり、何らかの専門的スキルや特別の経歴を有している従業員に対する呼称であることが多いようです。代表的な例としては、定年後再雇用された期間の定めのある労働者のことを嘱託社員と呼ぶ場合、医師や弁護士のような専門スキルを持っている契約社員のことを嘱託社員と呼ぶ場合、会社と労働契約ではなく業務委託契約を締結している者、地方公務員の嘱託職員のことを指す場合があります。

  いずれにしても、正社員でなく雇用期間に制限がある有期契約の特殊な雇用形態で雇用条件も正規雇用の社員と異なる雇用制度で採用される社員のことを嘱託社員ということが多いです。

  労働者側から見ると、しがらみなく働けるので転職がしやすいことをメリットと感じる場合もあるようです。

3 専門職としての嘱託社員

  医師弁護士その他特殊な専門スキルを有していながら、その企業と密接に関わり業務を遂行する労働者のことを嘱託社員と呼ぶことがあります。

  このような場合の嘱託社員の労働条件は他の契約社員や場合により正社員よりも給与などの面で高待遇というケースもあるようです。他方で、退職金等はないことが一般的ですし、週の労働時間によっては雇用保険等の社会保険への加入がない場合もあります。なお、労働保険のうち労災保険については、労働者の労働時間に関係なく一律に加入する必要があります。

4 定年後再雇用としての嘱託社員

  嘱託社員という場合に最も多く使われる意味合いが、定年後再雇用された契約社員を指す場合です。定年退職まで会社に貢献してきた従業員や年配者である従業員を、ただ有期雇用の「契約社員」と呼ぶことは抵抗があるという心情から広まったのかもしれません。

  高齢者雇用安定法により、事業者には、従業員の定年制の廃止や定年による退職後も70歳まで就労の機会を与える義務(継続雇用制度)等が課せられていますので、今後ますます定年後再雇用者の数は増えていくと予想されます。

5 公務員と嘱託職員

  市役所などの公共機関にも嘱託職員と呼ばれる職員がいます。通常、正職員であれば公務員試験に合格していることが採用条件となりますが、嘱託職員は公務員試験に合格していなくても採用されます。

  立場としては正職員の公務員を補佐するための非常勤職員となり、任期は1年から3年程度とされます。非常勤職員には、嘱託職員のほかにも、臨時職員や準職員などの種類があります。

6 業務委託としての嘱託社員

  会社と雇用契約関係にはないが就労場所が正社員等と同じである業務委託契約の受託者のこと嘱託社員と呼ぶこともあります。雇用契約や労働契約を締結しているわけではないため「社員」と呼ぶのは違和感がありますが、職場の仲間という意味合いもあるのかもしれません。

  なお、このような就労形態で企業が気をつけるべきなのは、受託者の仕事の仕方が実質的に雇用契約や労働契約と同じになっていないかという点です。実質的に「労働者」に該当するとされた場合、残業代等の割増規制や労災の適用などの問題が発生します。

7 嘱託社員の労働条件

  上記のように、嘱託社員というのは法律上は様々な立場にある人のことを指しますので、労働条件を一概に説明するのは困難です。しかし、一般的には、臨時または任期付として採用され、主たる業務を任されるというよりはサポート業務を行うことが多いため、正社員よりは低い待遇とされることが多いようです。

  いずれにしても、雇用契約書や就業規則等で、給与、有給休暇、退職金、労働時間、所定労働日数、所定労働時間等、契約内容をしっかりと定めておくべきす。厚生年金(厚生年金保険)や健康保険等の年金・保険関係その他の福利厚生についても同様です。

8 嘱託社員と無期転換ルール

  嘱託社員が契約社員である場合には、通常の契約社員と同じく無期転換ルールがあるので注意が必要です

  無期転換ルールとは、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)により雇用される従業員が、5年間継続勤務を続けた場合には、次回更新の際に期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)の申し込みをすることができ、事業者はこれを断ることができないという内容の制度です。

  会社としては、対象となる嘱託職員等の有期雇用契約者について無期雇用でも雇用継続したいのかどうかを予めしっかりと見定めて契約期間を定めたり契約更新するかしないかを判断する必要があります。また、人事の担当者は、どのタイミングで無期転換申込権が発生するかをしっかりと把握して管理する必要があります。

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