1 リストラとは?
リストラは、「restructuring(リストラクチャリング)」の略語で、元々の意味としては事業の「再構築」を意味します。しかし、事業の再構築の際には人員整理を伴うことが多いことから、日本企業でリストラという場合には、人員削減≒整理解雇のことを指すことがほとんどです。
本来の意味でいう事業のリストラ(再構築)は、整理解雇だけでなく、人件費以外の固定費の削減や、人事労務による業務効率化のための施策を含みます。また、人員整理についても整理解雇ではなく退職金を上積みした希望退職者の募集、選択定年制度での早期の定年の選択、退職勧奨、賃金の一律カットなども含まれます。雇用保険におけるいわゆる会社都合の退職か希望退職者募集への応募等の自己都合の退職かを問わず、広く人員整理についてリストラという場合もありますが、この記事では、一般的に用いられている意味合いのリストラ=整理解雇=業績の悪化に伴う解雇を行う場合に使用者側が注意すべきことを解説します。
なお、雇用契約を一方的に終了させる解雇には、整理解雇以外にも普通解雇や懲戒解雇という種類がありますが、普通解雇や懲戒解雇は事業の再構築とは無関係に行われるものです。
2 整理解雇(リストラ)は原則無効?
整理解雇(リストラ)を事実として会社が行うことは比較的容易ですが、これが法的に有効となるのは相当限定された場合です。というのも、整理解雇(リストラ)は、他の解雇と異なり労働者に帰責性があるわけではないため、労働者保護の観点から裁判例においてその要件が厳格に解されているからです。しかも、労働者の流動性が低い日本にいては、労働者保護の観点から解雇権濫用法理が形成されており、普通解雇や懲戒解雇ですら簡単には認められないのです。例えば、「コロナで経営が苦しい」などコロナ禍だけを理由として行われた整理解雇が無効になる可能性が高いといえます。
企業側から見ると、ただでさえ厳しい要件を課せられる解雇の問題の中で、法的に有効にするのが最も難しいのが整理解雇(リストラ)といえるでしょう。
法的な建て付けとしては、使用者は解雇権を有しておりそれを行使することができるのが原則で、ただしそれが権利の濫用となる場合には不当解雇として無効になるというのが例外です(労働契約法16条)。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法 | e-Gov法令検索
しかし、実際には「権利の濫用」に当たる場合がかなり広いため、実際に解雇権を行使する場合、使用者としては「解雇は原則無効になる」と考えた上でしっかりと準備をして臨む必要があります。
なお、形式上は退職勧告による自主退職という形を取る場合でも、その退職勧告の態様によっては法律に違反する不当な退職強要にあたる場合もあるため、注意が必要です。
3 整理解雇(リストラ)が無効になった場合の効果
これから整理解雇(リストラ)を有効に行うための要件の解説をしますが、いずれにしても最終的な結論は、必ず弁護士に相談してから解雇を実行すべきということです。弁護士が関与せずに行う解雇、特に整理解雇(リストラ)は、原則無効になると考えてもらって差し支えありません。解雇して争いが生じてから弁護士に相談するのではなく、解雇する前の相談が鉄則です。ここまで強調する理由は、解雇が無効になった場合に会社に与えるインパクトが極めて大きいためです。以下で説明します。
整理解雇(リストラ)の法的有効性を争われ、裁判で負けた場合の効果は企業にとっては甚大なものになります。なぜなら、もし裁判の結果、整理解雇(リストラ)が無効となってしまうと、解雇したその日からの賃金相当額を解雇した労働者に支払わなければいけないからです。これをバックペイといいます。解雇についての紛争は長期化することも多く、解雇から2年以上経過することもあります。この場合、バックペイの金額は、解雇対象者の2年分以上となる可能性があるわけです。実際にあった例として、東芝の社員が解雇無効を争ったケースで、裁判が12年にも及んだ結果、敗訴した東芝へ6000万円以上の支払いを命じたものがあります(東京高判平成28年8月31日)。
東芝の例は極端なものですが、多くの中小企業にとっては、解雇して働いてもいない相手に給与を支払わなければいけなくなるというのは、精神的にも経済的にも大きな打撃になるのが普通です。
解雇無効とされたときのインパクトと、解雇が無効になりやすいこと、特に整理解雇(リストラ)は原則無効といってよいほどの厳格さであることを考えれば、解雇をする前段階から弁護士に相談するべきです。
解雇を有効に行うことは、簡単ではありませんが、もちろん不可能でもありません。労働法務に精通した弁護士の助言やサポートを得ながら、自主退職を促す退職勧奨や有効な解雇を行えるようにしましょう。
4 整理解雇(リストラ)の4要素
整理解雇(リストラ)を有効にするための要件の厳格性と、解雇無効とされた場合のインパクトについて理解していただけたでしょうか。やっとここから本題の、整理解雇(リストラ)を有効に行うための要件と方法についての解説です。
整理解雇(リストラ)の有効要件については、裁判例の積み重ねにより導かれた4要件(4要素)があり、「整理解雇の4要件」(要件説)とか「整理解雇の4要素」(要素説)などと呼ばれています。4つの項目は相互に影響し合って総合考慮されていることから、要件というよりは要素という方が日本語として正しいと思いますので、ここでは「整理解雇の4要素」として紹介します。
整理解雇の4要素とは、①人員削減の必要性があること、②解雇回避努力が適切になされていること、③被解雇者選定の合理性があること、④解雇手続に相当性があること、です。順に見ていきましょう。
(1)人員削減の必要性
人員削減の必要性は、人員削減が経営上の十分な必要性に基づいていること又は企業の合理的運営上やむを得ない必要がある場合をいいます。
基本的には、財政上の問題であることがほとんどですが、経営は常に総合判断であることから、経営上の必要性について最も的確に判断できるのは、他ならぬその会社の経営者です。そのため、この要件については、基本的には会社側、使用者側の言い分は裁判所も尊重する傾向にあります。例えば、黒字企業であっても部門閉鎖や企業統合(M&A)などのために退職希望者や早期退職を募ったりしつつ、どうしても余剰の人材が出る場合には解雇することもあり得ます。
しかし、だからと言って「経営判断」の一言で済むものでないことはもちろんです。裁判例で人員削減の必要性が否定されたケースとしては、財政状況に問題がなかったケース、使用者が整理解雇前後に新規採用や賃金引上げなど矛盾する行動をしているケース、部門閉鎖のため人員削減の必要性はあるものの当該部門の全従業員を解雇する必要性まで認められないケースなどがあります。
なお、人員削減の必要性の有無の基準時に関して、目標人数などを定める人員削減策の策定時か最終的な整理解雇時かについて裁判例は分かれていますが、解雇の有効性の要素として考慮するわけですから、解雇時とするのが論理的であると思われます。
(2)解雇回避努力
解雇の最終手段の原則とも呼ばれる「解雇以外の他の代替手段を尽くしたか」という問題です。特に整理解雇(リストラ)の場面では、労働者に責任がないわけですから、最終手段の原則は特に強く働くと見るべきです。従って、整理解雇(リストラ)をしようとする使用者は、解雇回避努力をしっかりと行うことが極めて重要になります。整理解雇の4要素の中心的要素といえます。
解雇回避努力の具体例としては、役員報酬の削減、広告費・交通費・交際費等の経費の削減、新規採用の停止や縮小、中途採用や再雇用や有期契約労働者の更新の停止、労働時間の短縮による賃金カットや昇給のていし、配転、出向、希望退職募集などが挙げられますが、実際にはこれらのうち複数が検討されたり実施されたりすることがほとんどです。
ポイントとしては、実際に行わなかったことでもしっかりと検討すること及び検討した結果を残すことです。配転や出向を検討したが〜という理由で実現可能性がなかった等の主張も後々生きてくることがあります。
また、純粋な意味での解雇回避措置ではありませんが、解雇を前提とした経済的不利益緩和措置を取ろうとすることを整理解雇(リストラ)を有効付ける方向で評価する裁判例もあります。例えば、部門閉鎖に伴う余剰人員について、雇用の維持を第1に挙げつつ、それが困難な場合には当面の生活維持のための経済的補償及び再就職支援措置が求められるとして、退職者に高額の特別退職金の支給や再就職支援を提案したことを理由に解雇有効としたものがあります(ナショナル・ウエストミンスター銀行[第三次仮処分]事件 東京地判平成12.1.21)。他にも、不利益緩和措置としては、転職の斡旋や転職先の紹介又は転職エージェントの利用料負担、転職活動のための有給休暇の付与等のキャリア支援や、希望退職者への早期優遇の退職金の支給額の割増などの経済的負担をすることなども考えられます。
(3)被解雇者選定の合理性
解雇対象人選の合理性のことであり、基準が客観的に合理的で公正な基準によって行われることが必要です。会社や経営者の恣意的な判断をしっかりと排除していると示すことが重要になります。
解雇対象者の選定は、企業にとってはかなりの難問ですが、おおまかには、勤務態度の優劣(欠勤日数、遅刻回数、処分歴等)、労務の量的貢献度(勤続年数、休職日数等)、労務の質的貢献度(過去の実績、業務に有益な資格の有無等)、労働者側の事情(年齢、家族構成等)などが基準となります。他にも転職市場において転職しやすい年齢や資格があるか等を基準とすることも考えられます。
このような基準自体はそれがよほど不合理なものでなければ裁判でも一定程度尊重される傾向にありますが、基準の適用についても恣意的なものであってはならないのは当然です。例えば、勤務能力・成績の低さという基準自体は公正であるが、成績評価の基準や対象期間が明確でなく、各評価段階の分布人数も明らかでない場合は、主観的判断が混入するものとして適用の合理性を否定した裁判例があります(千代田学園事件 東京地判平16.3.9)。
(4)解雇手続の相当性(説明・協議義務)
説明・協議義務などとも呼ばれるように、解雇手続の相当性は、整理解雇について従業員に対してしっかりとした説明を行い、協議に応じてきたかという問題です。他の3要素と異なり解雇の手続的規律です。なお、労働基準法で求められている解雇予告や解雇予告手当の支払い等が必要となるのは当然です。
使用者が説明・協議すべき対象は、人員削減の必要性、整理方針・手続・規模、解雇回避措置の内容、人選基準とその適用方法、解雇条件等、他の3要素に広く及び、整理解雇に関して労使の自治的解決を促す機能を営んでいるといわれます。一時期はこの要素について緩和する傾向もありましたが、近年の裁判例ではむしろこの要件を重視しているとされます。
説明・協議の相手方となるのは、労働組合がある場合には労働組合、ない場合には解雇対象となる労働者らとなります。
そもそも説明・協議の場を設けないことは論外ですが、形式的にそのような場を設けても、経営資料を十分に示さず抽象的な説明に終始している場合や、使用者が自分の都合で説明・協議を一方的に打ち切った場合などもこの要素を満たさないないとされます(九州日誠電気事件 福岡高判平17.4.13、グリン製菓事件 大阪地決 平10.7.7等)。
企業としては、就業規則等で解雇の場合の手続や制度が定められている場合にその手続や制度をしっかり履践することは当然として、そのような手続や制度がない場合でも、客観的資料と十分な時間をかけて、しっかりと面談を行い、面談者からかなり丁寧な説明・協議を行うべきということになります。場合によっては顧問弁護士等の立ち会いも必要でしょう。
5 整理解雇(リストラ)は、すぐには出来ない!
整理解雇(リストラ)する場合に会社として一番気をつけたいポイントは、経営陣が「リストラしかない」と苦渋の決断をしたとしても、その決断後すぐに行う整理解雇はほぼ無効となるということです。これは、整理解雇の4要素のうちの②解雇回避努力や④解雇手続の相当性に関わる問題ですが、これらの要素は、要するに解雇する前に他の手段を取ったのかということ、解雇についての説明や協議を尽くしたのかということを問題にしているわけですから、特に後者については当然一定程度の時間を必要とします。
整理解雇の4要素のうち、①人員削減の必要性は経営判断として比較的緩やかにクリアできますし、③被解雇者選定の合理性についても、しっかりと客観的基準を設けて選定すれば問題視されることは少ないでしょう。しかし、②解雇回避努力と④解雇手続の相当性の2つについては、証拠化も含めてしっかりと検討して行っていかないといけません。
そうすると、有効な整理解雇を行うには、どうしても思い立ってから解雇まで一定期間かかってしまうことになります。
そのため、経営者がリストラについて思い至った場合には、実行の可能性がまだ小さい段階でも、できる限り早く顧問弁護士等の弁護士に相談していただき、その助言を受けながらリストラの手続を進めていくことをお勧めします。
弁護士法人えそらでは、整理解雇(リストラ)に関する助言や従業員への説明への立ち会いを含めたサポートをさせていただいております。お気軽にお問い合わせください。全国からの相談可ですし、この記事を読んでいただいた方については初回面談相談料は無料で対応いたします。