1 宗教法人とは
日本では宗教法人が全国で約18万件以上あるといわれています。その規模は様々ですが、宗教法人の代表役員の中にも、宗教法人法の内容をよく知らないという方も多いようです。
宗教活動の自由を保障するために、宗教法人では株式会社等とは法的に大きく異なる取り扱いがされています。この記事では、宗教法人について宗教法人法がどのような規制をしているのかについて簡単に解説させていただきます。
2 宗教法人を作るには
日本国憲法上、信教の自由が保障されていることから、宗教団体は誰でも作ることができますが、宗教法人は申請すれば誰でも自由に作れるわけではありません。宗教法人の設立、規則の変更、合併、解散については、その都度、所轄庁の認証を得る必要があります。
そして、宗教法人を設立するには、その前提として宗教法人法にいうところの宗教団体がすでに存在しており、現に活動していることが必要です。宗教法人法の宗教団体の要件として、①教義を広める活動をしていること、②儀式行事を行うこと、③信者を教化育成すること、④後悔性を有する礼拝施設があることがあります(宗教法人法2条)。
(宗教団体の定義)
第二条 この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。
一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体
二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体
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宗教法人を設立、運営していく上では、所轄庁の認証制度と登記が重要な手続となります。例えば、一定の事項については認証が必要とされるだけでなく、登記も必要とされており、登記事項に変更が生じた場合には登記事項変更届(登記事項変更登記完了届)を所轄庁に出さなければいけません。このように、登記そのものが宗教法人の実態を常に表しているようにすることが法律上求められていますが、この手続が常に履行されているとは限りません。そのため、登記事項が宗教法人の実態を証明するわけではないことには注意が必要です。
なお、各届出の様式例(参考様式)については、文化庁のこちらのサイトでWordファイルをダウンロードできますので、ご活用ください。
(登記に関する届出)
第九条 宗教法人は、第七章の規定による登記(所轄庁の嘱託によつてする登記を除く。)をしたときは、遅滞なく、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出なければならない。
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なお、令和3年9月15日の文化庁通知において、登記事項に係る情報を入手・参照することができるようになったことから、令和3年10月1日から、主教法人法9条に基づく登記に関する届出について、登記事項証明書の添付を要しないこととされ、電子メールで登記に関する届出を行うことが可能であることが連絡されました。
3 最重要!宗教法人の規則
宗教法人には必ず規則があります。これは株式会社等の定款にあたるもので、法人運営の根本原則であり、所定の手続を経て正式に作成して各都道府県(所轄庁)の認証を受ける必要があります。
宗教法人の管理運営(ガバナンス)については、この規則が全てであると言って良いほど重要なものですから、代表役員はもちろん、宗教法人の活動の中枢に関わる人であれば当該宗教法人の規則については必ず確認すべきです。なお、規則は法人の事務所に常に備え付けておかなければなりません(宗教法人法25条2項1号)。
また、規則を変更するには、法人内部で所定の規則変更の手続を経た上で、所轄庁に対し認証のための申請手続をとる必要があります。そのためには、規則変更認証申請書に必要事項を記載して変更認証申請を行い、規則変更認証書の交付を受ける必要があります。また、認証書や認証規則の謄本等の証明書が必要な場合には、証明書等交付申請書により交付の申請を行うことになります。
4 代表役員その他の責任役員
宗教法人には、必ず3人以上の責任役員を置き、そのうち1人を代表役員としなければいけません(宗教法人法18条1項)。また、規則に別段の定めがない限り、宗教法人の事務は、責任役員の定数の過半数で決し、その責任役員の議決権は平等とされます(同法19条)。
宗教法人の代表役員は、「宗教法人を代表し、その事務を総理する」(同法18条3項)とされています。株式会社の場合には、株主総会が最高機関となりますが、宗教法人の場合、株式や持分といった概念がないことから、代表役員や責任役員が絶大な権限を有していることになります。そのため、宗教法人法は、代表役員及び責任役員の独断専行をしないよう法令や規則を守ることはもちろん、宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮して適切な運用を図り、その保護管理する財産について他の目的に使用し又は濫用しないようにしなければならないと定めています。
(代表役員及び責任役員)
第十八条
5 代表役員及び責任役員は、常に法令、規則及び当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合にはその規程に従い、更にこれらの法令、規則又は規程に違反しない限り、宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮して、当該宗教法人の業務
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なお、未成年者、成年被後見人又は被保佐人、禁錮以上の刑に処せられその執行を終えていない又は執行を受けることがなくなっていない者は、宗教法人の役員等になることはできません(同法22条)。
また、宗教法人は規則及び規則認証書、役員名簿、財産目録、収支計算書、境内建物に関する書類、貸借対照表等の書類を事務所に備え付けておく必要があり(同法25条2項)、信者その他の利害関係人で正当な利益があり、かつ目的が不当なものでないと認めらえる者からの閲覧請求があった場合には、これらの書類を閲覧させなければなりません。なお、これらの書類に特に決まった様式はありません。
5 新たな事業を始める場合の注意点
事業活動を行うことは宗教法人本来の目的ではありませんが、宗教法人は、公益事業だけでなく、その目的に反しない限りは収益事業も行うことができます。ただし、その大前提として、規則に事業の種類や管理運営に関する事項を規定し、経理も分ける必要があります。
また、当然のことですが、その事業は当該宗教法人が主体となって行う必要があります。宗教法人の名義で実質的に他の事業者が事業を行うような名義貸しは許されません。契約の内容や実際の取引先の確認、運営状況の管理は絶対に必要です。
なお、宗教法人は原則として非課税とされているといわれますが(実際、境内地や境内建物で専ら自己の宗教の用に供されると認められる場合には登録免許税は非課税になりますし、法人税も原則として非課税です。)、収益事業を行う場合には、当該収益事業から得た収益等に法人税等がかかります(ただし、税率については優遇される)し、事業のために10人以上の従業員を雇用する場合には就業規則の作成や届出が必要である等、通常の事業者と同様のルールが課されます。
6 包括宗教法人との関係
宗教法人は、礼拝の施設を備える神社、寺院、教会などの単位宗教法人と、宗派、教団、教派などの神社、寺院、教会などを傘下に持つ包括宗教法人及び包括宗教法人の傘下にある被包括宗教法人に分けられます。
包括宗教法人と被包括宗教法人は、法律上は包括関係があるだけで支配関係にあるということはないものの、当該宗教においては一定程度の支配、被支配の関係が認められるのが通常です。そのため、宗教法人法では、一定の事項について他の宗教団体を制約し又は他の宗教団体によって制約される事項を規則の記載事項として定めています(宗教法人法12条1項12号)。また、被包括宗教団体は、包括宗教団体の名称及び宗教法人非宗教法人の別が登記事項とされています(同法52条2項4号)。
実際、ほとんどの宗教法人は、規則で被包括宗教法人に何らかの制約を課しています。例えば、被包括宗教法人の代表役員や責任役員の変更に包括宗教法人の承認を要するといった規定などです。
7 宗教法人の解散と清算
宗教法人の解散には、任意解散と法定解散があります。
(1)任意解散
任意解散とは、宗教法人が自主的に解散する方法による解散のことであり、規則に定める手続に従って解散手続を行いますが、所轄庁の認証が必要で、所轄庁からの当該書面の交付により効力を生じます(宗教法人法47条)。
任意解散について、規則に特段の定めがない場合には、責任役員の過半数の議決によることになります(同法19条)。解散の決定に際しては、清算人の選任や残余財産の処分についても議決しておきます。
規則で定める手続を経た後に、信者その他の利害関係人に対し、解散に意見があれば、公告の日から2月以上の一定期間内に述べるべき旨を公告します(同法44条2項)。
公告した期間の完了後に、所轄庁に任意の解散の認証を申請して、所轄庁から解散認証書及び謄本の交付を受け、認証書の交付を受けた日から2週間以内に、清算人(代表役員)が、解散及び清算人就任登記を申請し、印鑑届出書も提出します。解散の認証申請をした場合、まず申請書の記載事項や添付書類の有無等の形式的審査が行われ、公告証明書、責任役員会議事録等の書類の不備等がなければ受理通知が行われ、受理から3ヶ月以内に認証書及び謄本の交付が行われて解散の効力が発生します。
(2)法定解散
法定解散とは、宗教法人が宗教法人法43条2項に定める事由(合併、所轄庁の認証取消、破産手続開始決定、裁判所の解散命令等)に該当したときに、所轄庁の認証を要することなく行われる解散です。
(解散の事由)
第四十三条
2 宗教法人は、前項の場合のほか、次に掲げる事由によつて解散する。
一 規則で定める解散事由の発生
二 合併(合併後存続する宗教法人における当該合併を除く。)
三 破産手続開始の決定
四 第八十条第一項の規定による所轄庁の認証の取消し
五 第八十一条第一項の規定による裁判所の解散命令
六 宗教団体を包括する宗教法人にあつては、その包括する宗教団体の欠亡
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なお、破産手続開始決定を受けて解散した場合、遅滞なくその旨を所轄庁に届け出る必要があります(同法43条3項)。宗教法人がその債務についてその財産により完済できなくなった場合には、代表役員若しくはその代務者もしくは債権者の申立てにより又は職権で破産開始手続開始決定をするものとされていますので(同法48条)、財務状況はしっかりと管理しておく必要があります。
(3)清算手続
宗教法人が解散した場合、清算人の選任が行われ、清算手続に進むことになります。清算手続が開始すると、解散前から継続している事務を終了させます。これを現務の結了といいます。宗教法人が墓地や納骨堂を経営していた場合、許可権者から廃止の許可を受ける必要があります(墓地、埋葬等に関する法律10条2項)。
清算手続では、債務者からの弁済を受けたり、有価証券、境内地や建物などの不動産等の換金可能なものの売却などを行って資産を現金化し、債務をできる限り弁済します。
8 宗教法人審議会
文部科学大臣の諮問機関として、宗教法人審議会があります。審議会の委員は、宗教家又は宗教に関して学識経験のある者10名〜20名の範囲で構成され、宗教法人法の規定によりその権限に属させられた事項を処理することとされています。ただし、信教の自由の保障の観点から、宗教法人審議会は、宗教団体における信仰、規律、慣習等宗教上の事項について、いかなる形においても調停し、又は干渉してはならないとされています(宗教法人法71条4項)。
また、文化庁宗務課では、有識者による論説、宗教に関連する裁判例の紹介、宗教行政などの情報を掲載した「宗務時報」を発行しており、宗教界や関係各方面に参考となる情報を発信していますので、興味のある方は確認してみても良いでしょう。
9 顧問弁護士の必要性
以上のように、宗教法人の設立、合併、解散、譲渡などのガバナンスについては公益性という観点から株式会社等の企業や企業活動のそれとは大きく異なる側面がありますので、企業法務だけでなく宗教法人関係の制度に精通した専門家への依頼は多かれ少なかれ必要となります。
弁護士法人えそらでは、寺院や教会を始めとした宗教法人の管理運営に関する法律相談、各種契約書のチェックも承っておりますので、お気軽にご相談ください。公益性に配慮しながらも、依頼者である寺社や協会等の宗教法人の予防法務はもちろん、檀家とのトラブル、紛争その他の事件の対応から、公益的事業や制度改革まで幅広く対応いたします。なお、当然のことですが、仏教、キリスト教、宗派等を問わず対応いたします。
また、収益事業も行う宗教法人の代表役員の方の場合は、通常の経営者や個人事業主と同様に、債権回収トラブル、借地権者とのトラブル、契約解除に関するトラブル、内容証明の発送等の一般的な企業法務のリスクも抱えているわけですから、さらに顧問弁護士の必要性は高まります。
弁護士法人えそらでは、月額11,800円(税込)でそれ以上の法律相談料がかからないサブスク型の顧問弁護士契約(えそらプラン)も提供しております。えそらプランでは、法律相談料を気にする必要がなくなるだけでなく、個別事件依頼の費用である着手金が無料になり、契約書のリーガルチェックが40%割引になる等、多くのサービスが付帯していますので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。