誹謗中傷

インターネットの誹謗中傷への対応について、ケース別に弁護士が解説

インターネットが発達し、今まで情報の受け手だった人たちも情報の発信者になることができるようになってきました。クチコミをはじめ色々な情報を受け取ることができるようになった反面、匿名性が故の悪質な誹謗中傷も目立つようになってきました。

ある飲食店では、食材の偽装や料理の質の悪さ等のクチコミをきっかけに炎上してしまい店の売り上げが激減してしまったというケースもあります。

今回は、このSNS社会における企業の誹謗中傷対策について解説していきます

誹謗中傷とは何か

そもそも誹謗中傷とはなんでしょうか。 誹謗中傷は法律用語ではありませんが、一般的には他人を悪くいうこと、事実ではないことを根拠にした悪口を言いふらして他人の名誉を傷つけること、などと定義されます。

誹謗中傷をするとどのように処罰されるのか

誹謗中傷をすると刑事・民事の双方で処罰される可能性があります。

刑事事件でいえば「名誉毀損罪」「侮辱罪」「信用毀損罪」「業務妨害罪」などが考えられます。
それぞれの法定刑は以下のとおりです。
 名誉毀損罪  3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
 侮辱罪    拘留または科料
 信用毀損罪  3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
 業務妨害罪  3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

次に民事事件では、不法行為に基づく損害賠償請求として金銭の支払いを命じられることになります。
金額は数十万円〜数百万円と、書き込みの悪質性やそれに伴う影響によって変わってきます。

企業にとっての誹謗中傷

企業にとって誹謗中傷として検討しなければならない場面は大きく3つあります。

1)転職サイトにおける投稿内容
2)商品やサービスに関する投稿内容
3)バイトテロ等の内部の人間による投稿等

1)転職サイトにおける投稿内容

一昔前と異なり、転職をすること自体の敷居が低くなり、転職サイトの利用率も年々高まっています。より良い職場環境を目指して転職を行う方も多く、転職サイトの口コミは転職先を選ぶ際に一定程度の指針となっています。
2)で記載する商品やサービスに対する口コミと異なり、転職サイトの口コミは、絶対数が少ないため、1つの口コミが与える影響は2)のそれと比較すると相当大きくなります。そして、そのような口コミに「ブラック」などの記載があると企業の求人活動に大きな影響を与えることになるのです。 
したがって、この種の問題は、企業として迅速な対応が求められるインターネット問題の一つといえます。

2)商品やサービスに関する投稿内容

1)の転職サイトとは異なり、書き込みの絶対数が多く、書き込み先も個人のSNSやインターネット掲示板等対象が多く存在します。このように書き込みの絶対数が多くなると誹謗中傷に該当するような書き込みがあったとしても、それが閲覧される確率が高くなく、また仮に閲覧されたとしても、書き込みの絶対数が多いため、書き込み全体に占める誹謗中傷の割合は低くなります。したがって、一つ一つの書き込みが与える影響力は大きくなく、1)に比べて緊急性は高くないともいえます。 
しかしながら、誰の目にもとまる書き込みであるが故にひとたび目にとまれば拡散力も強く、炎上に繋がる可能性もあるので看過しがたいものです。

3)バイトテロ等の内部の人間による投稿等

一時期ニュース等でもよく取り上げられていましたが、バイト等が店内の商品等にいたずらをしている動画を投稿するいわゆる「バイトテロ」については、会社に対する信用低下等を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。 
これらは社内での徹底した教育を定期的に行っていくことで、社員の意識改善を図ることが必要となります。

企業にとっての誹謗中傷対策

自社の誹謗中傷を見つけた際には、

A 誰が
B どこに
C どのような内容を
 書き込んでいて、それによって
D 会社のどのような権利が侵害され
E その状態を誰が閲覧できるか

という視点を持つことが大切です。

この中で「A誰が」「Eその状態を誰が閲覧できるか」という項目につい目が行ってしまいがちですが、
大切なのは「Cどのような内容」を記載され「D会社のどのような権利が侵害され」ているかということです。
個人の権利侵害の場合には、「誰が書いたのだろう」「誰が見ているのだろう」というところが主眼になってきますが、企業の場合には、個人を特定するのよりも会社の損害を検討することが最優先だからです。

書き込まれたときの対応

上記の観点から、会社の権利侵害あると判断した場合…

1)初動が大切

インターネットの書き込みは誰でもアクセスできるものです。
見つけた場合にはすぐに弁護士に依頼することをおすすめいたします。
そういった際にすぐに対応してくれる顧問弁護士がいると安心でしょう。

2)その後の対応

書き込みを見つけた後、検討すべきはどのように対応するかということです。

書き込みの削除
企業として釈明記事の掲載
書き込んだ者の特定

など様々な方法が考えられます。

個人に対するインターネット上の誹謗中傷の場合には、削除や書き込んだ個人を特定し、損害賠償請求を行うという手順になりますが、企業の場合には必ずしもそうではありません。

商品やサービスを提供する会社の場合、安易に削除や損害賠償請求に踏み切ると「都合の悪いコメントは消すんだ」という批判を受ける可能性があります。
また削除を繰り返し行っている企業に対しては、評価の高いコメントが沢山書き込まれていても「評価の低いコメントを削除していれば、当然評価の高いコメントだけが残るだろう」という印象を与えてしまい、かえって企業価値を低下させてしまうこともありうるのです。

転職サイトの口コミについての書き込みの場合

類型ごとに対応は異なります。

1)雰囲気が悪い、人間関係が最悪 など

 会社に対するよくある不満の一つです。こうした書き込みについては、基本的には裁判手続きをすることはおすすめしません。
裁判所は、こうした投稿について会社の「権利侵害がある」と判断することに非常に消極的だからです。

「家族経営の典型的なワンマン主義」「口先で都合のいい事ばかり言い、肝心なトラブル対応のフォローや行動はまったくありません」、「その日の機嫌で言うことがよく変わり、急に怒り出したりし社員を振り回します」、「出産をしたら正社員ではなく、もし続けるのであれば、パート勤務になることが前提にあります」、「1人に対する業務の負担もかなり大きいため、とても長期で休める状況にはなくら正社員として長く働ける職場ではありません」という書き込みについて裁判所は

「従業員又は退職者の中に、上司や管理職に対して抱きがちな不満を持っている者(かつて持っていた者)が存在すると認識することは想定されるが、そのような認識は、原告においても、企業において一般的に起こりがちな問題が上司と部下の間の問題が存在するとの評価につながり得るとしても、原告において、犯罪行為や不正会計といった類の行為が行われているといった、原告の社会的評価を傷つけることにつながる記載があるとは認められない。すなわち、本件各記事が原告の名誉を毀損したと認めることはできない。」

(東京地裁平成28年11月24日判決。控訴棄却)

と判断し、権利侵害性を否定しています。

そしてこのような訴訟において敗訴をすることは、「都合の悪いコメントを削除しようとしてる」という悪評を生み出すきっかけになるなどの二次被害を生みかねません。
したがって、こうした権利侵害に対しては、安易な裁判はおすすめできません

2)残業代が払われない、不当解雇された、パワハラがある など(客観的に是非が判断できるもの)

こうした書き込みついては、書き込みが「虚偽」であるという資料を準備することができる場合には、裁判手続きをすることも検討してみましょう。

会社としては、こうした書き込みがなされることを念頭に置き、日常的にタイムカードの管理等をしっかり行っておくことが必要になります。
またパワハラ等については、企業としてハラスメント防止セミナーを定期的に行う等の対策を講じていることも書き込みがなされたときに有効となってきます。

バイトテロの場合

バイトテロとは、アルバイトなどの従業員が悪ふざけとして、会社に損害を与えるような行為をSNSへ投稿すること等の行為をいいます。たとえば、アイスクリーム用の冷凍庫に入ってみたり、一度ゴミ箱にすてた魚を拾って調理をしたりする動画をアルバイトがSNSに投稿することなどです。

こうした投稿については、世間から「従業員教育どうなっているんだ」とか「ここの食品は不衛生そうだから買うの辞めよう」という悪評がたってしまう心配があります。
こうした投稿に対する対処法として、はこれまでのように投稿者を特定するということはなく(投稿を見れば誰が行っているかわかるため)むしろ投稿を行った従業員に対して会社との労働契約違反として責任追及をするという方向で考えていくことになります。

また、対世間については、しっかりとした説明責任を果たす必要があります。

不適切な行為があったことおよびその行為の内容

 ここでは噂が大きくなってしまう可能性も考慮して、実際に起こった不適切な行為の内容を会社側から世間の方へしっかり説明をすることが大切です。
同時に虚偽の噂が広まっているようであれば、しっかりと否定をする必要があります。

加害者への対応

 この点については、しっかりとした処罰を下すことが会社の信用回復につながります。甘い対応をしてしまうと、「しっかりしていないから、このようなことが起きるのだ」と世間からの批判が会社に向いてしまう可能性があります。したがって、損害賠償請求をした場合にはその合計金額と内訳を公表し、刑事事件化するために警察へ被害届を提出したのであれば、その旨もしっかり報告をすることが大切です。

さいごに

企業にとってSNSは宣伝活動として有用になる反面、誹謗中傷の危険にさらされる可能性もあり諸刃の剣といえます。
誹謗中傷を完全に防ぐことは不可能ですが、何か起こった際に、しっかりと対応することができるよう、日頃から準備を整えておくことが必要です。

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