労働問題

契約社員について会社が知っておくべき5つのこと

1 契約社員とは

    契約社員とは、一般に正社員と呼ばれる無期契約労働者(期間の定めのない労働契約によって使用される者)との比較で、労働契約に、3ヶ月、6ヶ月、一年のような期限が定められている有期契約労働者(期間の定めのある労働契約によって使用される者)のことをいいます。ただし、労働基準法や労働契約法などの労働法全般の中で、「契約社員」という言葉の厳密な定義があるわけではありません。有期契約労働者の中にも、フルタイム勤務の労働者パートタイム勤務の労働者嘱託社員アルバイト派遣労働者などの種別があります。一般的には、一定期間継続して働くことを前提とするフルタイム勤務の労働者やパートタイム勤務の雇用形態の労働者を契約社員と呼ぶことが多いようです。

契約社員の多くは月給により給与支給されていますが、日給月給制や時給月給制の場合も正社員の場合に比べると多いようです。また、週の所定労働時間が20時間以上で6ヶ月以上の継続勤務の可能性がある場合には雇用保険の加入が必要です。

 契約社員(有期契約労働者)は、使用者側、企業側からすると、業績が良い場合には大量に採用しつつ、業績が悪化した場合には契約更新をしないことで人員削減等の人事労務を容易にするという意味で、雇用の「調整弁」としての機能を期待できることから使用者側にとってはメリットが大きいといえます。また、正社員より給与などの待遇が低いことも多いでしょう。他方で、仕事の内容としては経験をそれほど必要としない未経験OKのものであったり、残業が比較的少ない、勤務地が限定されていなどの特徴もあるようです。

しかし、これを労働者側から見ると、有期契約労働者は非常に不安定な地位に立たせることになるデメリット(契約満了と同時に収入がなくなるリスク、経験者としてのキャリアアップ・スキルアップがしにくくなるリスク等)が小さくないため、法律は、有期契約労働者の契約の不更新(雇い止め)や、無期契約労働者への転換など、使用者に対して一定の制限を設けています。

  企業や経営者などの雇用主としては、このような無期雇用への転換など契約社員についての一定の制限をしっかりと理解した上で、有期契約社員の雇用や更新・不更新などを意思決定していく必要があります。

2 契約社員の無期転換ルール

(1)無期転換制度の概要

 無期転換制度とは、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した雇用期間が5年を超える労働者が、その使用者に対して現に締結している有期労働契約の契約期間満了までの間に、その契約期間満了日の翌日から労務提供される期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす制度です(労働契約法18条1項)。

 ざっくりといえば、5年以上継続して雇用されている契約社員には、無期転換の権利を持っている対象になります(通常その間に1回以上の更新がされているはずですので、「2以上の有期労働契約」の要件はそれほど気にする必要はありません。)。なお、通算期間の5年は、改正労働契約法の施行日である平成25年(2013年)4月1日以降の有期労働契約からカウントします。

 無期労働契約への転換の権利は、ある契約を強制するという意味で極めて強い効果を持つものです。契約社員、パート、アルバイトなどの名称のいかんにかかわらず、全ての有期契約労働者が対象者となります。改正労働者派遣法上の派遣労働者も対象となり、その場合の対象労働者が無期転換の申込をするのは派遣会社(派遣元の会社)です。

ただし、高齢者については無期転換位ついて一定の特例が定められています(後述します。)。

(2)無期転換者=正社員ではない

 有期労働者からの無期転換申込があった場合、労働契約は、無期労働契約になり対象労働者は無期雇用労働者になりますが、その他の労働条件を正社員(正規雇用労働者)と同格にすることまでは求められていません。有期雇用派遣の労働者が無期転換しても派遣会社の正社員となるわけではないということをイメージしていただくのが理解しやすいかもしれません。

 そのため、使用者側としては、無期転換社員の労働条件について、①そのまま有期雇用の時の労働条件と同じにするか、②正社員と同じ条件にするか、③「別段の定め」(労働契約法18条1項)として、個別労働契約、就業規則、労働協約により新たな労働条件を定めるかを選択することができます。

(3)継続雇用高齢者の特例(無期転換なし)

 高齢者等の雇用の安定等に関する法律(高齢者雇用安定法)により、60歳定年を定めている企業の多くは、60歳定年後の再雇用制度を導入し、再雇用者は期間の定めのない労働契約者として働くことが増えてきました。

 このように定年後に有期契約労働者として働く身分となった継続雇用の高齢者については、無期労働契約から再雇用で有期労働契約となった後にさらに無期転換するというサイクルを疑問視する声や、かえって高齢者の雇用の機会を奪う結果になりかねない等の理由から、無期転換申込権は発生しないこととされました(有期特別雇用特別措置法)。なお、同法では、継続雇用高齢者の特例だけでなく、高度専門職に関する特例も定められています。

(4)企業が取るべき対応

 使用者側や企業側として、そもそも無期転換を防ぎたい場合には、同一の労働者との有期労働契約を5年以上継続しない、あるいは「5回以上は更新しない」等の不更新条項を設定しておくという方策が考えられますが、契約時にそのような不更新条項が入っていたにもかかわらず、具体的事情から更新の期待があったとして不更新(雇止め)が無効とされた裁判例(カンタス航空事件、東京高判平成13.6.27)もあるので注意が必要です。

 他方で、使用者が同一の労働者を5年以上雇用したいと考えるのであれば、無期契約の申し込みをされた場合にしっかりと対応する準備が必要です。無期契約に転換した場合の労働条件当該労働条件を記載した労働契約書及び労働条件通知書転換後に適用される就業規則等の整備をしておく必要があります。

 また、法律上は、無期転換の申込の意思表示は労働者本人が口頭ですることでも足りますが、やはり後日の紛争化を防ぐためには書面によるのが望ましいことから、無期転換申込権の行使方法を就業規則に定めて情報を周知しておくようにすべきです。他にも、無期転換申込権の放棄などをさせる場合、その放棄が真に労働者の自由意志に基づきなされる限りにおいては放棄が有効となる余地も十分にあるため、書面化することは当然として、労働者に放棄の意思だけなく放棄の理由についても具体的に記載してもらうなどの工夫も必要です

 なお、無期転換を回避するために、更新の際に形式的にクーリング期間(有期雇用期間の通算をリセットする期間)を設ける趣旨で、使用者を子会社である株式会社等に変更するなどの脱法的な措置も当然許されないので注意してください。

 弁護士法人えそらでは、無期転換制度への対応サポートも行っています。お気軽にお問い合わせください。

3 更新に関する注意点

 経営の柔軟性や雇用の調整という観点からは、使い勝手の良い有期労働契約ですが、契約を更新しない雇止めを行う場合に一定程度の注意を払わなければ、その雇い止めが違法無効となり雇止め以降の賃金相当額の支払いを命じられるリスクがあります

 そこで、この項では、更新に関して企業が押さえておくべきことを概説し、雇い止めに際して注意すべきポイントを解説します。

更新等に関する明示

有期労働契約を労働者と締結する場合、事業者は、更新の有無、更新するしないの判断基準、その他留意すべき事項を明示する必要があります。

この点については、社会保険労務士や弁護士に確認済の契約書式を使用することで、しっかりと明示できていると思いますが、これまで意識していなかったという経営者の方や法務担当者の方は、是非一度確認してみてください。

この明示を行っていないことが直ちに具体的な不利益を企業にもたらすわけではないですが、この明示があることは無用の紛争を防止する必要最低限のことであり、事業者としても手間がかかるものではないので、必ず実行してほしいところです。

雇止めの予告

使用者は、有期労働契約者のうち、3回以上更新しているか1年を超えて継続雇用されている者に対して雇止めを行う場合、最低でも契約の期間が満了する日の30日までに、その予告をしなければなりません。①3回以上更新しているか、②1年を超えて継続雇用されているか、いずれかを満たしている労働者に対しては予告が必要ということです。転職するための時間が最低でも30日は必要だということです。

もっとも、全ての契約社員に予告する扱いをしておけば、上記の要件を意識する必要はありませんし、事務手続でも区分の必要がないので、そのような運用とすることもお勧めです。

雇止めの理由証明書の交付

使用者は、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付する必要があります。雇止め後に労働者からの請求があった場合も同様です。

この雇止め理由証明書に記載する理由は、簡単な記載で十分ですが、期間満了によるものだけでは足りません(期間満了は更新しない理由ではありません。)。証明書に記載すべき理由については、契約締結時に定めた更新上限の回数やその他契約締結時に明示した更新についての判断基準と整合する理由を記載するようにしましょう。

契約期間の配慮

使用者は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて雇用継続している有期契約労働者との労働契約を更新しようとする場合、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければなりません。ただし、有期労働契約の期間の上限は、原則として3年ですので注意してください。

これはあくまで事業者の努力義務ですが、極端に短い期間を定めるのは避けるべきですし、前回の契約よりも契約期間を短くする場合にも一定の注意を払っておくべきでしょう。

4 不更新(雇止め)に関する注意点

 契約更新よりも更に慎重に行うべきなのが、契約社員との契約不更新(雇止め)についてです。一定の場合には雇止めの予告や理由証明書の交付が必要になることは上記で述べたとおりですが、それに止まらず、雇止め自体が無効とされることがあります

 これは、裁判所が、雇止めについても解雇に関する法理(解雇権濫用法理)類推適用する等して雇止めの有効・無効を判断してきたからです。労働契約法19条は、この裁判所の運用を追認する形で、雇止め法理を定めています。

もう少し具体的にみてみると、厚生労働省の分類によると、雇止めの裁判例では、業務の内容や更新手続の実態など複数の要素から、当該有期労働契約について、①純粋な有期労働契約タイプ②実質無期労働契約タイプ③期待権保護(反復更新)タイプ④期待権保護(継続特約)タイプに該当するとした上で、①の場合には雇止めを有効として、②〜④の場合には、個別具体的に有効無効を判断していますが、②であると判断された場合にはほとんどの事案で雇止めが無効とされています

 なお、一部の企業において、試用期間の趣旨で有期労働契約を用いているケースも見られますが、試用期間の趣旨であると認定された場合には、実質は無期労働契約であるとされる場合があるため、試用期間の趣旨であるならば最初から(求人募集の時点から)試用期間と明示して雇用すべきです。

5 正社員との待遇差に注意(同一労働同一賃金)

 契約社員(有期雇用労働者)と正社員の間には、賃金や福利厚生などの待遇、交通費の支給等に差があることが通常です。

 しかし、実質的に同じ職務内容であるのに、契約社員(非正規社員)か正社員(正規社員)かというだけで異なる待遇にすることは許されません。これを同一労働同一賃金の原則といいます。同一労働同一賃金の原則については、従前労働契約法20条で定められていましたが、法改正により2020年4月からパートタイム・有期雇用労働法8条に同趣旨の規定が定められ、2021年4月以降中小企業にも適用されます。

 したがって、契約社員と正社員の雇用条件について、基本給、賞与、退職金、残業手当その他の各種手当、交通費支給の有無、休暇、設備使用、福利厚生等の待遇差を設ける場合には、それぞれの項目について、なぜそのような差を設けるかについて不合理でない理由を説明できるようにしなければいけません。残業代の割増率を異なるものにするなどの待遇差についても同様です。

詳細については、同一労働同一賃金についての解説ページをご確認ください。

6 契約社員についての企業相談は弁護士法人えそらへ

 弁護士法人えそらは、全ての中小企業のために、契約社員に関する問題の法律相談、就業規則作成等の法的環境整備その他のサポートを実施しています。無期雇用への転換を含めた契約社員の問題でお悩みの経営者、法務や人事の担当者の方は、お気軽にお問い合わせください。

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