労働問題

同一労働同一賃金とは?最高裁判例を含め、企業が押さえておくべきポイントを徹底解説

1 同一労働同一賃金とは

そもそも同一労働同一賃金とは?

  同一労働同一賃金とは、短時間・有期雇用労働者の労働条件(待遇)に関して、正社員との間に「不合理と認められる」相違を設けてはならないとする原則です。日本における同一労働同一賃金は、正社員間の賃金格差や非正社員間の賃金格差を是正しようとするものではなく、正社員と非正社員という雇用形態の異なる労働者間の賃金格差を是正しようとするものであるという点が特徴的です。

  かつては労働契約法20条に定められており、現在では短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」といいます。)8条に定められています(労働契約法20条は削除)。

第20条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

改正前労働契約法

(不合理な待遇の禁止)

第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

パート有期法

   条文上、不合理な相違を設けてはならないとされている対象は、「基本給、賞与その他の待遇」とされていますが、各種手当などの賃金の相違はもちろん含まれますし、賃金だけでなく福利厚生や休暇などの待遇差も含むという点には注意が必要です

   また、同条は、不合理性の判断について、①業務の内容、②職務の内容、③当該職務の内容及び配置の変更の範囲、④その他の事情という4つの要素を考慮することを定めています(以下「不合理性判断の4要素」といいます。)。不合理性判断の4要素は、同一労働同一賃金の原則に違反しているかいないかを考える際に非常に重要な指標となります。

改正前の状況

  上記の通り、元々、労働契約法20条で同一労働同一賃金の原則について は法律上の規定があったのですが、具体的にどのように不合理性を判断するかについては裁判例も学説も分かれていて、企業実務も混乱していた状況にありました。

  そのような中、2018年6月1日、労働契約法20条に関するリーディングケースとなる2つの重要な最高裁判決が出されました(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件)。

  ちょうどその頃、政府主導で働き方改革の旗が振られ、同一労働同一賃金の原則についての根拠条文も、労働契約法からパート有期法へ移設されることとなり、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月からその適用がスタートになりました。

  このように働き方改革の一環として、同一労働同一賃金の問題が騒がれ始めた矢先の2020年10月に、この問題について重要な5つの最高裁判決が出されました(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件(東京、大阪、佐賀)。これらの最高裁判決は、いずれも改正前労働契約法20条についての判断ですが、同趣旨のパート有期法8条の解釈として極めて重要であることはもちろん、これらの判例によって最高裁がどのように「不合理性」を判断しているかという枠組みが見えてきたといえます。

  なお、上記5つの最高裁判決の前に出されている同一賃金同一労働に関するリーディングケースであるハマキョウレックス事件、長澤運輸事件も重要です。各最高裁判決については後述します。

何が変わる?

  今回の法改正によっても、実は同一労働同一賃金の内容が変更されたというわけではありません。条文自体の変更から読み取れる変更点は、パートタイマーに対する待遇差も不合理なものであってはならないという点と、賃金全体として比較するのではなく基本給、賞与、各種手当等の項目ごとに比較すべきということを明確にした点です。

  また、法改正後も、同一労働同一賃金の原則の違反に対して罰則等のペナルティはありません。

  そうすると、対象にパートタイマー労働者が含まれたこと以外は、一見何も変わらないように思えますが、そうではありません。

  企業や使用者として注意すべきであるのは、この働き方改革の流れの中で同一労働同一賃金が注目された以上、今後も何も対策しないままでは、労働者からの損害賠償請求の可能性、そしてその請求が認められてしまう可能性が高まってくるということです。

  7つの最高裁判決によって、裁判例や企業実務による「同一労働同一賃金原則に違反していないかどうか」の判断基準も安定してくるものと思われます。そのような中で、同一労働同一賃金について全く対処しないというのは、企業にとって大きなリスクになりかねないという点は強く意識すべきところであるといえるでしょう

2 同一労働同一賃金の目的

  そもそも何故、パート有期法は同一労働同一賃金の原則を定めたのでしょうか?

  それは、非正規社員と正規社員の雇用形態のみによる不合理な待遇格差を是正するためです。しかし、そもそも何故、非正規社員と正規社員の不合理な待遇格差を解消すべきなのでしょうか?

もちろん「不合理なことは無くすべきだから」といえばその通りなのですが、もう少し政策的な側面もあります。政策的な側面というのは、やはり働き方改革です。

  生産性を高めることを目的とする働き方改革を実現するためには、多様性(ダイバーシティ)を尊重して、各人の能力やライフスタイル、ライフステージに応じた働き方を認めることが重要な手段になるため、労働者が多様な働き方を選択することを躊躇しない制度設計が必要となるわけです。つまり、非正規社員の待遇と正規社員の待遇の不合理な格差を解消しなければ、労働者としては正規社員以外の雇用形態で働き方を選ぶことをしにくくなり、その結果、働き方改革を実現することが難しくなってしまうということです。

  そのため、同一労働同一賃金原則を徹底し、企業にその対策を取らせて正規社員と非正規社員の不合理な待遇格差をなくすことで、労働者が各人の能力やライフスタイルに合わせた働き方を選択しやすくなり、ひいては企業全体、日本全体の生産性も上げるということが目的となっているといえます。

3 同一労働同一賃金のメリット・デメリット

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金の制度を整えた場合、正社員の待遇と不合理な格差のある待遇であった非正社員にとってメリットがあることは当然ですが、企業にとっても一定程度のメリットがあります。

  • 人材不足の解消(求職者への訴求と定着率向上)
  • 非正社員のコミットメントの向上
  • 生産性向上

同一労働同一賃金のデメリット

  同一労働同一賃金の制度を整えた場合、企業側にデメリットはあるのでしょうか?制度の見直しそのものに手間がかかるということは当然の負担ですが、それ以外にも以下のようなデメリットないし負担が現れることは十分考えられます。

  • 人件費の増加
  • 正社員のモチベーション低下
  • 説明への対応

それでも同一労働同一賃金制度を整えることは必要である理由

  上記のようなデメリットがあるからといって、同一労働同一賃金の制度を整える必要がないわけではなく、むしろ雇用形態により相違のある待遇について同一労働同一賃金原則に適応する制度を導入するなどしておかなければ、時間と共に訴訟リスク及び損害賠償リスクが高まることになります。

  そのため、大企業はもちろん、中小企業といえども、これらのデメリットを発生させないためにどのような工夫をしていくかという観点から対策を考えていく必要があります。

  弁護士法人えそらでは、同一労働同一賃金の制度を整えることについてもサポートしています。お気軽にご相談ください。

4 同一労働同一賃金ガイドライン

  いきなり同一労働同一賃金といわれても・・・という経営者や事業主の方も多いと思いますし、労働者側も果たして自分の待遇が同一労働同一賃金に反するものであるのかどうかということを判断するのは簡単ではありません。

  そのため、同一労働同一賃金の原則に反するような短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇格差の具体例について、行政見解が示されました(厚生労働省告示第430号 短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針。これを「同一労働同一賃金ガイドライン」と呼びます。)。

  同一労働同一賃金ガイドラインは、あくまで行政見解であり法的拘束力はないとされるものの、企業実務はもちろん、裁判実務(裁判所の判断)への影響も極めて大きいと考えられるため、企業としては、同ガイドラインの読み方、特にどの部分が特に重要であるかを理解しておく必要があります。

  まず最も重要であるのは、基本給に関する部分です。上記ガイドラインでは、基本給について、概要、以下のように記載しています。

(1) 能力又は経験に応じて支給するもの

通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、  能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

(2)業績又は成果に応じて支給するもの

通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、 業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。 なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する場合も同様である。

(3)勤続年数に応じて支給するもの

通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に 応じた基本給を支給しなければならない

(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの

昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。

同一労働同一賃金ガイドライン

  これだけを読むと、同一労働同一賃金ガイドラインは、短時間・有期雇用労働者(非正規社員)と正規社員との待遇を雇用形態に関わらず全く同じにしろと書かれているように見えますが、そうではありません大きな前提が存在しているのです。

  その大きな前提は、正規社員とパートタイム職員等の非正規社員が「共に職能給制度」であるとか「共に職務給制度」であるというような、いずれも同じ賃金制度であった場合の話をしているということです。そのような場合には、正社員か非正規社員かという理由だけで異なる待遇にしてはいけないというある意味当たり前のことを言っているにすぎないわけです。

  しかし、日本の企業において、正社員と非正規社員が「共に職能給制度」であるとか「共に職務給制度」であるという賃金制度を採用している会社はほとんど存在しません。企業がこの点を意識して賃金制度を設計しているかどうかはさておき、ほとんどの企業は、雇用形態に応じて、「正社員に対しては職能給、非正規社員に対しては職務給」というように異なる形で賃金設定しています。そのため、上記ガイドラインの基本給部分の記載(本文)は、ほとんどの企業では前提を欠きそのまま適用できるものではありません。

  そして、正社員と非正規社員で異なる賃金制度を用いている企業(圧倒的多数の企業)について、ガイドラインでは、本文ではなく脚注という形で触れていて、そこでは、概要以下のように説明されています。

1 ルールの相違がある場合の取扱い

正社員と非正規社員の間で賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「正社員と非正規社員との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない。

同一労働同一賃金ガイドライン

  この脚注の意味は、「役割期待」の相違により、なぜ「正社員が職能給で、非正規社員は職務給」という異なる賃金制度を採用するのかを「客観的及び具体的な実態に照らして」説明できなければ同一労働同一賃金原則違反になるということです。異なる賃金制度を採用する理由をきちんと説明しなさいというわけです。

  逆に言えば、異なる賃金制度を採用する理由を具体的に説明できれば、基本給や昇給に関して異なる取り扱いをすることも説明しやすくなります。

  異なる賃金制度を採用する理由を具体的に説明するには、人事評価の観点が重要です。例えば、日本郵便(東京)事件でも、役割期待が人事評価によって具体化されています。

  そのため、圧倒的多数の企業で絶対に必要になるのは、正社員と非正規社員の人事評価制度を分けることです。その上で、その人事評価制度の内容から「役割期待」が異なることを具体的に読み取れることが重要になります。

5 同一労働同一賃金に関する7つの最高裁判例

  同一労働同一賃金に関しては、リーディングケースである平成30年(2018年)に出された2つの最高裁判例と、一定程度裁判所の考え方を明らかにした令和2年(2020年)に出された5つの最高裁判例があります。以下、それぞれの最高裁の判断について概要を説明します。

ハマキョウレックス事件(最判平30.6.1)

【事案の概要】

  有期契約社員のドライバー(トラック運転手)が、住宅手当、皆勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当等に関して、同じ職務内容の正規雇用者のドライバーとの間で差異がある点が労働契約法20条(現行の有期パート法8条に相当)に反するとして、その差額分の支払いを請求した事件です。

【最高裁の結論】

  住宅手当以外の各種手当についての差異は、全て不合理な差異とされました。

【解説】

  長澤運輸事件と並び同一労働同一賃金に関する最初の最高裁判決(リーディングケース)です。

  住宅手当の差異については、ハマキョウレックスという会社が東京証券取引所市場第1部に株式を上場しており、従業員数も4500人を超え、正社員には全国規模の異動の可能性がある一方で、契約社員については就業場所の変更が予定されていないことから、正社員については契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから、差異は不合理ではないとされました。

  他方で、その他の手当てについては、職務内容が同じであること及びそれぞれの手当支給の目的や性質を検討した結果、差異は不合理であるとされました。

  各種手当の支給や額に差異を設ける場合には、職務内容、人材活用の仕組み及びその他の事情の違いによって、当該手当の目的や性質を踏まえた合理的な説明ができるかが重要になります。

長澤運輸事件(最判平30.6.1)

【事案の概要】

  定年退職後に有期契約の嘱託乗務員のドライバーとして再雇用された労働者が、職務内容及び人材活用の仕組みが同一の正社員と比べて基本給、手当、賞与等の相違により年収が約79%となることから、その差額分を請求した事件です。

【最高裁の結論】

  精勤手当及び超勤手当の差異は不合理とされ、基本給や賞与等その他の差異については不合理ではないとされました。また、不合理性判断においては、労働条件全体を比較するのではなく、各労働条件ごとに比較する方法を採用しました。

【解説】

  ハマキョウレックス事件と同日に出された判決ですが、ハマキョウレックス事件が現役世代同士の比較であったのに対して、長澤運輸事件は現役世代と定年退職後再雇用者との比較であるという特殊性があります。

  定年退職後再雇用者であるという点については、不合理性の判断の考慮要素である「その他の事情」として考慮するとされました。長澤運輸事件は、職務内容にも人材活用の仕組みにも違いがないケースですが、定年退職後再雇用者であるという点を重要な「その他の事情」として考慮し、精勤手当及び超勤手当以外は全て不合理ではないとしました。

  もちろん、定年退職後再雇用者であるということだけで基本給や各種手当の差異に不合理性がないとされるわけではなく、キャリアプランや生活保障の必要性などが現役世代と大きく異なる点を踏まえて、待遇の相違が生じている理由を具体的に説明できるということが重要になります。

大阪医科薬科大学事件(最判令2.10.13)

【事案の概要】

  大学の有期アルバイト職員として教室事務の担当者が、賃金、賞与、年休、休暇、私傷病欠勤、医療費補助などの相違が不合理であるとして、正職員との差額賃金の請求及び慰謝料請求をした事件です。

【最高裁の結論】

  最高裁では主として賞与についての差異が判断されましたが、不合理性判断の4要素を仔細に検討し、賞与差について不合理ではないとされました。なお、その他の差異について夏期休暇については不合理であるとされましたが、その他については不合理でないとされました。

【解説】

  賞与に関する最高裁の判断は、不合理性判断の4要素を仔細に検討するもので判断方法の参考となります。注意すべきは、アルバイトなんだから賞与がなくても当然だとか正社員と賞与の額に差があって当然だというわけではないということです。他の最高裁判例や裁判例でも賞与の差異について不合理でないとされたものはありますが、いずれも正社員と同じ賞与ではないものの、0ではない程度以上の給付がされていた点は押さえておきたいところです。

  アルバイトに全く賞与を支給していない場合に、不合理性判断の4要素に照らして差異が微妙だと考えられる場合には、寸志や金一封などの給付を検討すべきでしょう。

メトロコマース事件(最判令2.10.13)

【事案の概要】

  地下鉄構内の固定売店で販売業務に従事していた常勤フルタイムの有期雇用労働者が、基本給、資格手当、早出残業手当、賞与、退職金、住宅手当、褒賞などについて、正社員の待遇差異が不合理であるとして、その差異に相当する額について不法行為に基づく損害賠償請求をした事件です。

【最高裁の結論】

  原審は、早出残業手当、住宅手当、褒賞、そして退職金について4分の1の限度で、それぞれ不合理であると認めて、その部分について損害賠償を命じました。最高裁は、退職金の部分についてのみ上告受理決定をして判断しました(それ以外の部分については原審の判断が確定しています。)。

  その上で、退職金についての差異は、不合理でないとしました。

【解説】

  最高裁は、原審が一部について不合理とした退職金の差異について、不合理ではないと判断しました。ただし、退職金制度に差異を設けること一般に不合理でないとしたものではない点には注意してください。補足意見においても、退職金には功労褒賞の性格を有する部分が存することが一般的であって、均衡の取れた処遇を図っていくことは同一労働同一賃金の趣旨に沿うものとの指摘がされています。

  契約社員であっても、フルタイム常勤について、正社員との職務内容等について明確な相違を設けられていない場合で退職金を一切支給しないとしている場合などは制度の見直しや創設を検討すべきです。

日本郵便(東京、大阪、佐賀)事件(最判令2.10.15)

【事案の概要】

  郵便集配業務などの郵便の業務に従事する時給制契約社員らが、基本賃金や賞与、住宅手当のほか、夏期冬期休暇(東京、大阪、佐賀)、年末年始勤務手当(東京、大阪)、年始期間の勤務に対する祝日給(大阪)、病気休暇(東京)、扶養手当(大阪)等の待遇について同様の業務に従事する正社員との間に差異があることは不合理であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求としてそれらの差額を請求した事件です。

【最高裁の結論】

  夏期冬期休暇(東京、大阪、佐賀)、年末年始勤務手当(東京、大阪)、年始期間の勤務に対する祝日給(大阪)、病気休暇(東京)、扶養手当(大阪)についての差異は不合理であるとしました。

【解説】

  最高裁は、個別の労働条件ごとに不合理性を判断するという長澤運輸事件で示された判断手法を踏襲して不合理性判断を行い、各種手当や休暇についての差異が不合理であるとしました。

  傾向としては、勤務の特殊性や特定の時期に勤務したことへの対価的な手当については、不合理性判断の4要素に照らして強い関連性が見出せず支給をしないということは不合理とされる可能性が高そうです(ただし、額に差を設けて支給すれば足りる余地はあります。)。

  また、病気休暇や扶養手当といった、長期雇用を予定する正社員の生活保障を図り継続的勤務を確保する趣旨の手当については、経営判断として尊重しうるものの、非正規社員の中にも「相応に継続的な勤務が見込まれる」場合には上記の趣旨が妥当するから、その場合に上記待遇を全く実施しないことは不合理とされました(ただし、こちらも額や日数などの程度問題とする余地はあります。)。

6 同一労働同一賃金に関する重要な裁判例

学校法人産業医科大学事件(福岡高判平成30.11.29)

【事案の概要】

   任期1年の臨時職員として30年以上にわたり契約を更新し、大学病院の歯科口腔外科で予算・物品の管理、講義の準備、学生の出欠管理等の業務に従事してきた労働者が、正社員との不合理な賃金格差について使用者に対して損害賠償請求した事件です。

【裁判所の判断】

福岡高裁は、業務の範囲や責任の程度に差があり、異動の有無等人材活用のシステム上の差もあるとしながら、30年の長期にわたり雇用されていたことをその他の事情として考慮し、月額3万円の基本給や賞与支給に不合理な賃金差があるとして損害賠償を認めました。

井関松山製造所事件高松高等裁判所判決(高松高判令和1.7.8)

【事案の概要】

農機具メーカーの製造ラインに勤務する契約社員らが、正社員との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び精勤手当について不合理な格差があるとして会社に対して損害賠償請求した事案です。

【裁判所の判断】

高松高裁は、家族手当、住宅手当、精勤手当についての待遇差は不合理であるとして手当相当額の支払いを命じ、賞与の待遇差については「寸志」が支払われていたことなども考慮して、不合理でないとしました。

なお、会社側は、無期転換後には労働契約法20条(現在のパート有期法8条)の適用はないので少なくとも無期転換後の損害賠償は認められないという主張もしていました(同一労働同一賃金の原則は、非正規社員と正規社員の待遇差を問題とするものですから、無期転換により正社員となった労働者に妥当しないという理屈は筋が通っています)が、高松高裁はこの点について、本件においては無期転換後に損害金の支払義務を負わないと解するべき根拠は認め難いとして無期転換後の家族手当等の手当相当額の損害賠償請求も認めています。

九水運輸商事事件(福岡高裁平30.9.20)

【事案の概要】

荷役作業に従事していたパート社員が、通勤手当が正社員の半額とされていることについて不合理な格差である等として、会社に対して通勤手当等の差額相当額の損害賠償請求をした事件です。

【裁判所の判断】

福岡高裁は、無期労働者(正社員)とパート社員の間で広域移動や人材活用の仕組みとは関係がないことから、通勤手当の差額相当額の損害賠償を認めました。

ニヤクコーポレーション事件平成25年12月10日大分地方裁判所判決

【事案の概要】

   有期契約で配送業務に従事するトラック運転手(約8年半の更新あり)が、更新拒絶は違法無効であり、賞与や週休日の日数が正社員よりも少ないことは不合理な格差であるとして損害賠償請求した事件です。

【裁判所の判断】

   大分地裁は、就業規則に配転や出向の規定、事務職員への転換などの定めはあるものの、実際上、そのようなケースが少ないことから、職務内容や責任の範囲に差異があるとまでは認めず、損害賠償請求を認めました。

社会福祉法人青い鳥事件 横浜地判令和2.2.13

【事案の概要】

   社会福祉士資格を有している有期雇用職員が、無期雇用職員については産前8週間、産後8週間の有給休暇が与えられているのに対して、有期雇用職員については産前6週間、産後8週間の無休休暇しか与えられていないことは労働契約法20条に反する不合理な相違であるとして、損害賠償請求をした事件です。

【裁判所の判断】

   横浜地裁は、これらの制度が設けられた目的は、職員の離職を防止して人材を確保する趣旨が含まれ、「有期契約職員を、無期契約職員に比して不利益に取り扱うことを意図するものということはできず」、不合理とは認められないとして原告の請求を棄却しました。

7 各種賃金・手当・福利厚生ごとの取り扱い

  実際に、正社員と非正規社員との間で異なる取り扱いをする場合の注意点等をそれぞれの待遇項目ごとに簡単に紹介します。

基本給・賞与・退職金

・基本給

  基本給については、正規社員と非正規社員に対してそれぞれ職能給制度を採用しているのか職務給制度を採用しているのかその他の制度や複合的な制度を採用しているのかなどを比較するところからです。異なる賃金体系を採用している場合には、その理由を不合理性判断の4要素に照らして、具体的かつ客観的なものとして説明できるかという点が重要となります。

  また、4要素のうちの「その他の事情」のなかで、そのような賃金体系を採用するに至った経緯、労使交渉なども重要な考慮要素となるので、この点も意識して検討することになります。

・賞与

  賞与については、多くの裁判例では、正社員と非正規社員との異なる取り扱いについて不合理ではないとされています。しかし、必ず不合理でないとされるわけではない点は注意が必要です。例えば、大阪医科薬科大学事件の高裁判決(大阪高判平成31.2.15)では、賞与不支給について「合理的な理由を見出すことが困難であり、不合理という他ない」として不合理性を認めています。(ただし、最高裁では不合理性は否定されました。)。

  そのため、非正規社員に対して賞与を「全く支給しない」取り扱いとしている場合には、不合理性判断の4要素を用いてしっかりと不合理性について検討すべきでしょう。簡易な対策としては、非正規社員に対して賞与とはいえないまでも寸志や金一封を支給する等が検討に値します。

・退職金

  退職金についても、賞与と同じく正規社員と非正規社員で異なる取り扱いをすることの不合理性は否定されにくいといえますが、絶対に不合理でないとされるわけではありません。例えば、メトロコマース事件高裁判決(東京高判平31.2.20)では、「長年の勤務に対する功労報償の性格」をも有しておりその性質は長期雇用された非正規社員にも妥当するということを指摘して、4分の1の限度で退職金不支給を不合理としました(最高裁では不合理性が否定されましたが、反対意見も付されています。)。

各種手当

・役職手当

  役職手当は、通常、特定の役割や責任を負うことに対して役職等の有無により区別されて支払われるものですから、その意味では手当支給の有無の相違を設けることに不合理性は認められにくいでしょう。ただし、逆にいえば、特定の役割や責任を非正規社員にも負わせているにもかかわらず、役職手当の支給の有無を正規社員かどうかのみで区別しているような場合には、不合理と判断される可能性があります。

・特殊作業手当

  特殊な作業に従事した場合に支払われる手当については、全く同一の業務に従事させる限りは正規社員と非正規社員に同一の支給を行うべきです。ただし、業務日数、時間、作業量などに有意な差がある場合には、その差異に応じて手当の額を調整するということは許容されやすいと考えられます。

・特殊勤務手当

  特殊な勤務に従事した場合に支払われる手当については、全く同一の業務に従事させる限りは正規社員と非正規社員に同一の支給を行うべきです。ただし、業務日数、時間、作業量などに有意な差がある場合には、その差異に応じて手当の額を調整するということは許容されやすいと考えられます。

・精勤手当・皆勤手当

  これらの手当はインセンティブの一種ですが、職務の内容が異ならない場合、出勤者確保の必要性や皆勤を奨励する必要性に相違はないと考えられることから、正社員と非正社員で差異を設けることは不合理とされやすいでしょう。ただし、業務日数、時間、作業量などに有意な差がある場合には、その差異に応じて手当の額を調整するということは許容されやすいと考えられます。

・時間外手当

  正社員と非正社員で割増率に差異を設けることは、特段の事情がない限りは不合理とされる可能性が高いと考えられます。法定の割増率を守ることは当然として、正社員に法定の割増率以上の割増率で時間外手当を支払う場合には、非正社員にも同じ割増率で時間外手当を支給すべきです。ただし、特段の事情として、労使交渉の結果として正社員と非正社員の時間外労働の割増率が異なるなど「その他の事情」の考慮によっては、不合理でないとされる余地も十分にあるでしょう。

・深夜・休日手当

  これも、上記時間外手当と同様に考えられ、原則としては差異を設けることは不合理とされる可能性が高いですが、「その他の事情」などの考慮によって不合理でないとされる余地もあると考えられます。

・通勤手当・出張旅費

  通勤手当や出張旅費は、業務遂行のための実費の補填にありますが、この趣旨は正規社員であっても非正規社員であっても妥当すると考えられるため、差異を設けることは不合理とされやすいでしょう。

  ただし、勤務場所の違い(本社勤務か店舗勤務か)や、所定労働日数での額を変えるといったことは許容されると考えられます。

・食事手当

  食事手当については、食事にかかる費用の補助で勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に支給されるもので、このことは職務内容が同一の正規社員と非正規社員いずれにも妥当する趣旨であることから、差異を設けることは不合理とされる可能性が高いです。ハマキョウレックス事件(最判平成30.6.1)でも正社員にのみ給食手当が支給されていることが不合理とされました。

・家族手当・単身赴任手当

  生活保障的な意味合いの強い手当であり、長期雇用を予定する労働者の継続的勤務を確保する趣旨の手当であると考えられますが、非正規社員にも相当に継続的な勤務が見込まれる場合には、やはり同じ趣旨が妥当するといえるため、差異を設けることは不合理となります(日本郵便(大阪)事件(最判令和2.10.15)。

  ただし、定年後再雇用の嘱託社員について家族手当の支給に正社員と差異があることが争われたケースで、最高裁は、定年後再雇用を「その他の事情」として考慮して不合理でないとしています(長澤運輸事件 最判平成30.6.1)。

・地域手当

  地域手当は、特定の地域で働くこと労働者に対して支払われるものであり、その趣旨は正社員かどうかで異なることはありませんから、原則として正社員と非正社員の間で差異を設けることは不合理であると考えられます。

  ただし、正社員には一律の基本給を採用して地域ごとに地域手当を支給しつつ、契約社員などの非正社員は採用された地域ごとに基本給が異なる(それぞれの地域の物価が基本給に組み込まれている)場合には、正社員に地域手当を支給しつつ非正規社員について地域手当を支給しないということも不合理とはいえないでしょう。

福利厚生

・施設利用

  食堂、休憩室、更衣室などの施設利用に関しては、正社員か非正社員かで異なる取り扱いをすることは、人材活用の仕組み等からも説明することが困難であるため、特段の理由がない限り不合理となると考えられます。このことはパート有期法12条、パート有期法施行規則5条からも明らかです。

(福利厚生施設)

第十二条 事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。

パート有期法

(法第十二条の厚生労働省令で定める福利厚生施設)

第五条 法第十二条の厚生労働省令で定める福利厚生施設は、次に掲げるものとする。

 給食施設

 休憩室

 更衣室

パート有期法施行規則

・転勤者用社宅

  非正規社員であっても通常の労働者(正規雇用)と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額等)を満たす限りは、同一の転勤者用の社宅の利用を認めなければなりません。ただし、転勤などがある非正規雇用というのは実際にはほとんど見られないと思われます。

  非正規社員に転勤等がないのであれば、転勤者用社宅の利用を認めないことは全く不合理ではありません。

・慶弔休暇・慶弔見舞金

  慶弔休暇の趣旨は、国民の慣習的行事である慶事や弔事について従業員の私生活に配慮して労働から離れてその参加を認めることにあります。

  そうすると、基本的には正社員であろうが非正社員であろうがこの趣旨は妥当しますので、同一の付与を行うことが原則となります。ただし、労働日数や時間の違いなどを考慮して、付与する日数に差を設ける取り扱いが不合理でないとされる余地はあります。

  慶弔見舞金については、その趣旨が企業への帰属意識を高めるためのものであるとすると、長期雇用のインセンティブという側面が強いことから、正社員にのみ支給することとしても不合理とは言えないと考えられます。ただし、慶弔見舞金については同一労働同一賃金ガイドラインに記載がなく、管見の限り裁判例等も見当たりませんので、紛争予防の観点からは、相応の継続的勤務が見込まれる非正社員については支給するという措置を採る方が無難であると思われます。

・健康診断に伴う勤務免除と有給保障

  事業者は、常時使用する労働者に対して年に1回は健康診断を受けさせることが義務付けられています(労働安全衛生規則44条)。健康診断に伴う勤務免除や有給保障をする場合に、正社員か非正社員かで異なる取り扱いをすることに合理性が認められる(不合理でないといえる)ことは少ないと思われ、原則として同一の付与及び保障をすべきと考えられます。

・病気休職

  病気休暇は長期継続勤務が期待される従業員に対して継続的雇用確保の趣旨といえることから、正規社員と非正規社員との間で差異を設けることは原則として不合理ではないでしょう。

  ただし、非正社員にも「相応に継続的な勤務の見込み」が認められる場合には、付与自体に差異を設けることは不合理とされる可能性が高いと考えられます。

・法定外有給休暇その他の法定外の休暇

  有給休暇等は、一次的には従業員の心身の疲労を回復させて労働力の再生産に資するため及び従業員のゆとりある生活の実現などが趣旨とされていますが、法定の有給休暇への上乗せや賃金保障は、長期雇用にあたっての手続の省力化、事務の簡便化の趣旨や、離職防止、有為人材確保などの趣旨も含まれます。

  そうすると、長期雇用を予定している者の継続的勤務確保の趣旨がある場合には、正社員と有期雇用者等の非正規社員との間で差異を設けることも不合理でないとされる余地も十分にあります(社会福祉法人青い鳥事件 横浜地判令和2.2.13参照)。ただし、非正社員にも「相応に継続的な勤務の見込み」が認められる場合には、付与自体に差異を設けることは不合理とされる可能性が高いと考えられます。

・教育訓練

  現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施する教育訓練については、正社員と非正社員の職務の内容が同一である限り、同一の教育訓練を実施しなければなりません。外部の研修費用を負担する場合も同様であると考えられます。

  ただし、正社員については、現在の職務に直接の関連がない学習プログラム(キャリアアッププログラム)の費用負担をしつつ非正社員にはそのような負担をしないという措置が許容される余地はあると考えます。

8 同一労働同一賃金と派遣社員

  同一労働同一賃金の原則は、労働者が派遣スタッフの場合でも当然に妥当します。

しかし、派遣社員の場合、派遣元企業に雇用されて派遣先企業で使用されるという、雇用と使用の分離がされているため、派遣労働者については、派遣元の通常の労働者(正社員)との比較をすべきであるのか、派遣先の通常の労働者(正社員)との比較をすべきであるのか考える必要があります。

  この点について、法律(派遣法30条の3)は、派遣先の通常の労働者との比較によることを原則としました(派遣先均等・均衡方式)。労働者としても、通常は同じような仕事をしている派遣先企業の正社員との待遇が気になるのが普通ともいえるでしょう。

  ただし、派遣先の労働者との待遇バランスだけを考えていると、派遣労働者の中には、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わるなど待遇が不安定になることも考えられます。そこで、派遣法は、派遣元が一定の要件を満たす労使協定に基づいて派遣労働者の待遇を定めたときは、派遣先均等・均衡方式を適用せず、労使協定方式によることを認めました(派遣法30条の4)。

  実際、派遣社員の待遇決定方式については、労使協定方式による場合が大多数となっています。派遣社員の賃金水準の安定性確保のための実務的負担を考えると、実務的には労使協定方式の方が原則となっているのも自然といえるかもしれません。

(不合理な待遇の禁止等)

第三十条の三 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であつて、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。

第三十条の四 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第四十条第二項の教育訓練、同条第三項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。ただし、第二号、第四号若しくは第五号に掲げる事項であつて当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第三号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。

 その待遇が当該協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲

 前号に掲げる範囲に属する派遣労働者の賃金の決定の方法(次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあつては、イ)に該当するものに限る。)

 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。

 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること。

 派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たつては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。

 第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇(賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定の方法(派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることとならないものに限る。)

 派遣元事業主は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者に対して第三十条の二第一項の規定による教育訓練を実施すること。

 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 前項の協定を締結した派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、当該協定をその雇用する労働者に周知しなければならない。

労働者派遣法

9 企業がやるべきこと

  同一労働同一賃金の原則に違反しても罰則があるわけではありません。しかし、違反状態を放置しておけば損害賠償の対象となり、結局は設定していた正規雇用者と非正規雇用者の待遇差分の金額を支払わなければならないことになりかねません。

  また、そのような紛争が生じてしまうと、弁護士費用等の経済的負担や訴訟対応などの時間的負担も増大します。そのため、企業や使用者としては、現状の自社の制度が同一労働同一賃金の原則に反していないかということの確認と、反している場合やグレーな場合には裁判等に耐え得る制度に設計し直すことが必要となります。

  最も重要なのが現状把握です。現状の正規雇用社員と非正規雇用社員の賃金体系や福利厚生の取り扱いの差異が同一労働同一賃金の原則に反していないかを確認する必要があります。その判断は専門的な部分も含むので、労働法務に詳しい専門家である弁護士や社会保険労務士に依頼するのが安全でしょう。

  その上で、現状の正規雇用者と非正規雇用者の待遇の相違が、不合理性判断の4要素や最高裁判例その他の裁判例から同一労働同一賃金原則違反となっていないかを判断し、違反となっている場合や違反といわれる一定の可能性がある場合には、その差異をどのように埋めるのかを検討することになります。これらの検討は、訴訟対応をも見据えた対処が必要となるため、弁護士などの専門家と協働して進めていくべきです。

  弁護士法人えそらでは、同一労働同一賃金原則への対応についてのサポートも行っています。お気軽にご相談ください。 

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