契約書類

誓約書の法的効力は?作成時の注意点や書き方も含めてテンプレート付で解説

1 誓約書とは?

  誓約書とは、当事者の一方が他方に対して誓って約束する内容を書面にしたものです。誓約書という言葉自体は法律上の定義があるわけではありませんが、当事者の意思の内容を書面に顕したものとして一定の証拠価値がありますし、誓約書の差し入れと受領により誓約書を差し入れた人と受領した人の間に一定の合意・契約があると認められることが多いといえます。

  なお、誓約書は、「書かれている内容を守ります」という内容であることから、契約書、合意書、示談書、和解書などと異なり、当事者全員が署名捺印又は記名押印するのではなく、約束する当事者の署名捺印又は記名押印がされることが一般的です。

  当事者の一方にのみ法的義務や事実上の義務を課したり、事実認識を確定させたい場合などに使いやすい書式であるといえますが、企業法務との関連では、採用内定時、入社時、退社時、トラブル発生時等に、従業員やサービス利用者に誓約書を書かせて提出させる場合があります。

  その他の一般的なシーンでは、不倫や浮気等の不貞行為の慰謝料請求の場面で、夫婦の一方又は不倫相手が不倫された配偶者に対して「2度としません」「○円の不倫慰謝料を支払います」「次やったら離婚することに同意する夫婦間合意契約を締結します」「今後、夫婦関係の改善に努めます」等の誓約書を書く場合など、○○という行為をしないという約束をする場面で誓約書が作成されることが多いです。不貞行為以外の暴行等の損害賠償事案の慰謝料減額の文脈で誓約書の提出を行うこともあります。

2 誓約書の法的効力

  誓約書に法的効力があるかについては、全て個別判断になると言わざるを得ませんが、しっかりと法的効力を発生させることのできる内容も多いです。

  この点については、その誓約書が処分証書か報告証書(報告文書)かという法学的な見方の問題もありますが、実務的には、「仮に裁判になったときに相手に誓約書の内容を強制できるか、あるいは約束違反があるとして損害賠償請求できるか」という観点を意識して作成することになります。法的効力とは、まさにこのような意味で考えることができます。

  なお、法的効力のない誓約書が全く意味がないかというと、必ずしもそう言い切れません。仮に裁判で強制したり誓約に違反したことについて損害賠償請求できないものであっても、当事者が「約束をした」という事実を受け止めて実際の行動に制限をもたらす場合もあるからです。そのため、場合によっては、その誓約内容や合意内容に法的効力はないと分かっていながら誓約書の提出を求めることも考えられます。

3 誓約書の書き方(書かせ方)

  誓約書を書く場合、書いてもらう場合に注意したいのは、その記載内容の法的な有効性だけでなく、その誓約書を作成する状況などから作成者の自由意思により作成されたことを疑われないようにする必要があります

(1)内容自体の有効性

  誓約書に定められている内容が、公序良俗に反するものであるとか、その他の強行法規に反する場合には、法的には無効とされ効力を持たない場合があります。

  企業が従業員に書かせる誓約書の場合は、特に労働関係法令に反しないように注意が必要です。例えば、残業代は請求しないとか、無料で働きますとか、労働契約の不履行があった場合は○円の違約金を支払う(賠償予定)とか、転職や退職をしませんなどを誓約書に盛り込んでも無効となりますし、むしろそのような誓約書を提出させる会社側の行為を問題とされかねません。なお、一定の金銭支払いを約束させる場合に保証人や連帯保証人を求めたいという場合もあると思いますが、保証人までつける場合には誓約書方式でなく、本人についてもより詳細な事項を契約内容として定めた契約書の作成をする方が無難です。

  情報化社会と呼ばれて久しい現在では、仕事上知り得た秘密や個人情報を外部に漏らさないと誓約する秘密保持誓約書を従業員に提出させる企業も増えてきました。秘密保持誓約書や機密保持誓約書については、「秘密情報」の定義をしっかりと記載せず単に「会社で得た情報」のように抽象的に記載している場合、その範囲が曖昧で広範すぎるとして無効となる可能性があるので注意が必要です。

(2)自由意思の担保

  誓約書の内容が法的に有効と思われるものでも、たとえば騙して提出させるとか強制的に提出させるなどの方法によって誓約書を作成させた場合、内容自体は法的効力があるように見えるものであっても、後にその意思表示が自由意思によらない(意思表示に瑕疵がある)ものとして無効となったり取り消されたりする可能性があるので注意が必要です。

  例えば、密室に長時間拘束して、誓約書を書かなければ帰さないという状況を作って誓約書を作成させたとしても、その誓約書は無効となる可能性が高いです。また、誓約書を書かなければ解雇するといった類の不利益措置を取らないことを条件に書かせるような場合も注意が必要です。他にも、虚偽のメリットを提示して誓約書を書かせるのもN Gです。

4 誓約書のテンプレート(ひな形)

  誓約書についてはしっかりとした型があるわけではありませんが、最低限の記載事項として誓約の内容の記載のほか、宛名署名捺印(記名押印)は必要です。その他、日付と表題も入れるのが一般的です。

  会社が労働者に対して誓約書を差し入れさせるよくあるケースと関連して、入社誓約書、秘密保持誓約書、支払い誓約書についてのテンプレート(雛形)を掲載しますので参考にしてください。内容や項目は一例、例文であり変更可能です。

(1)入社誓約書のテンプレート

                   入社誓約書

○○株式会社
代表取締役○○  殿  

                                   令和○年○月○日  

                             誓約者           
                             住所            
                             氏名          印  

この度、貴社に入社するにあたり、下記事項について誓約いたします。
                    記
  1 雇用契約、就業規則その他諸規定を順守すること
  2 勤務時間は職務に専念すること
  3 業務命令に従うこと
  4 転勤、配置転換、出向等の辞令に従うこと
  5 会社の名誉や信用を毀損しないこと
  6 会社と競業する事業に従事し又は自ら行わないこと
                                         以上  

(2)秘密保持誓約書のテンプレート

                    秘密保持誓約書

○○株式会社
代表取締役○○  殿  
                                   令和○年○月○日  

                               誓約者           
                               住所            
                               氏名        印  
  
  この度、貴社に対して負う秘密保持義務に関し、下記事項について誓約いたします。
                      記
  1 次の①から⑤の情報について、会社の書面による事前承諾なく外部に漏洩しないこと   
    ①取引先の情報 
    ②顧客に関する情報 
    ③商品原価 
    ④商品作成の方法 
    ⑤その他会社が書面により秘密情報と指定するもの  
  2 前項の情報について、在職中だけでなく退職後も漏洩しないこと
  3 秘密情報を漏洩して貴社が損害を被った場合には損害を賠償すること
                                         以上    

(3)支払い誓約書

                      支払い誓約書  
○○株式会社
代表取締役○○  殿  
                                   令和○年○月○日  
                                誓約者           
                                住所            
                                氏名        印  
 この度、私が貴社の金銭について金○円を横領していたことにより生じた同被害額について、私から貴社への支払い義務があることを認め、下記の方法により弁済することを誓約します。なお、期限までに入金なき場合には期限の利益を失い直ちに全額弁済します。
                    記
     支払い総額:金○円
     支払い開始日:○年○月○日
     支払い期日:○年○月から○年○月まで毎月末日限り
     支払い金額:毎月金○円
     遅延損害金利率:年14.6%
     支払い方法:銀行振込
     入金口座:○銀行○支店      
          普通 1234567      
          ○○株式会社
                                         以上  

5 誓約書作成時の注意点

  上記で紹介したテンプレートは、いずれも一般的な事項についてのみ誓約内容として最小限の記述、文例になっています。その誓約書を作成するに至った経緯等を内容に組み込む場合もあります。誓約書に決まった書式や定型があるわけではないので、形式の細部よりも、どのような内容にするかをしっかりと検討すべきです。

  法的効果を持たせたくて書かせるのか、単に反省の意を示させる意味で書かせるのかによっても内容は異なってきます。

  書き方によって有効無効の判断が変わってくることもあります。例えば、「会社に損害を与えた場合に損害賠償します」という内容は有効になる可能性が高いですが、「○円支払います」という内容は無効になります。また、退職者の競業避止義務残業代請求などについては記載の方法も要検討です。要するに債務者の債務の内容をどのように具体化するのかを意識する必要があります。

そもそも誓約書という形式で良いのか、合意書契約書方式の方が良いのではないか、もっといえば公証役場で公証人に公正証書を作成してもらう方が良いのではないかなど、どのような形式を採用するかも検討して判断すべきです。確実に法的効果を持たせたい、法的手続きに移行したときに有用なものにしたい場合には、事前に専門家である弁護士に相談してください。

また、近年大きな民法改正もありましたので、従来の誓約書を使いまわしている場合には、民法改正対応済か否かも確認しましょう。確認者としては、法務担当者か弁護士が良いでしょう。

  弁護士法人えそらでは、従業員その他の第三者に対して誓約書をもらう場合の内容のリーガルチェックや周辺事情の確認等、誓約書の作成サポートにも対応しています。また、契約はメールを用いた電子契約でも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

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