契約書類

契約書とは何か。何に注意するべきか。企業法務に精通する弁護士が徹底解説【各種契約書のひな形付き】

私たちはお仕事の場面や日常生活の中で商品を売るあるいはサービスを提供するという場面においても、商品を買うあるいはサービスを受ける場面においても、契約書を取り交わしています。何気なく署名押印をしていることが多い契約書ですが、何でもかんでも署名押印をしていると思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります
事業承継や金額の大きなビジネス等の場合にはしっかり契約書をチェックするかもしれませんが本来は、あらゆる契約においてその契約書をチェックする必要があります。
今一度、契約書とは何かどのような点に注意をするべきなのかこの記事において確認しておきましょう。

また皆様の契約書作成業務のお役に立てるように、契約書のテンプレート(無料)をいくつかご用意しました。下記に様式ダウンロードページがあるので、資料データはそちらのサイトからご確認ください。

契約書とは何か

契約とはなにか

契約書について考える前にまず、契約について検討しましょう。
契約とは何でしょうか。
契約とは、当事者間で行う約束のことをいいます。契約を締結した場合には、当事者は、その約束の内容を守らなければなりません。
つまり、契約の内容に拘束され、契約内容にしたがって行動をする義務を負うことになるのです
義務というと仰々しく聞こえるかもしれませんが、売買契約においても物を渡す義務とお金を支払う義務が当事者双方に発生しています。賃貸借契約においても、家を貸す義務と家賃を支払う義務が発生しています。
このように、契約というのは当事者が拘束されることになる義務の内容について、双方で合意を交わすことによって成立する法律行為のことを言います。

契約書とはなにか

それでは、契約書と何でしょうか。
契約書とは、簡単に言えば、契約の内容が書かれている書面・文書のことを言います。
法律上、契約が成立するのは、契約当事者双方の意思が合致したとき、双方の合意が成立したときです(贈与契約等は書面による契約が必須である旨が法律に定められているので、例外といえます。)。
つまり、ほとんどの契約の成立において、契約書は必須のものではありません
つまり契約書がなくても、意思の合致だけで契約は成立するのです。

契約書はなぜ必要

法律上、契約は意思の合致だけで成立するのであれば、わざわざその内容を契約書として作成しておくのはなぜでしょうか。

1)契約の内容について、事前に吟味することができる

契約締結という行為が何らかの義務を負う行為である以上、やはり事前に契約内容について吟味をする時間を持つことが大切です。
社内で検討をしたり、顧問弁護士に確認をしてもらうことが必要な場面もあるでしょう。
その際、契約締結前の交渉過程で予定されている契約内容の確認をすることができる書類があれば、冷静になって何度でもその契約内容について検討することができます。
また、場合によっては検討を経て「この部分だけ変更してほしい」という交渉をすることも容易になり、双方が納得した内容で合意を成立させやすくなります。

2)双方の合意内容が明確化される

契約書を作成して、当事者間の合意内容を書面に残すということは、当事者の合意内容が客観的に記されることを意味します
。口頭のみでは曖昧な部分があったとしても書面にすることによって、合意内容が明確化されることになるので、契約に関する当事者間の誤解を防ぐことができます。小さな誤解が後々、大きな紛争になることも少なく無いので、非常に大きな役割といえます。

3)契約当事者以外の者も合意内容について確認することができる

企業等では、契約を締結した人物と実際にその契約内容に沿って動くことになる事業部担当者が異なる場合が少なくありません。そうなった場合、本来契約内容を把握しておくべきは、契約を締結した人物ではなく、その契約内容に沿って動く人物です。
さほど複雑ではない合意の場合には、口頭で伝えることによってある程度カバーすることができるかもしれませんが、それでも抜け穴は出てきてしまうでしょう。
この点、合意内容を契約書に落とし込めば、実働の方が契約内容をより正確に把握することができます。

4)内容を振り返ることができる

例えば、請負契約等において順次納期が決められていたり、工程が指定されていたり、納期が遅れた場合の措置について細かな取り決めをしておいた場合など、複雑な契約を締結した場合には、口頭合意のみでは、契約内容についての記憶が曖昧になってしまう可能性があります。
契約内容を書面化しておくことによって、サービス提供企業としては適宜契約内容を振り返ることができ、行動の指針になります。こうした適宜の振り返りによって、紛争の発生防止にも役立ちます。

5)裁判等の手続きにおいて証拠となる

できれば避けたいことですが、契約を締結し取引を行うという時には、紛争のリスクについて念頭においておかなければなりません。
たとえば、システム構築を依頼するという契約をした当事者間で、合意内容とは異なるものが提供されたとしましょう。提供を受けた側は、約束のものと違う、と主張しますが、提供した側も合意内容とは異なるものを提供したつもりはなく、約束通りのものを提供した認識でいると主張した場合、どうでしょうか。
お話し合いで解決すれば一番いいのですが、作り直す費用はどちらが負担するのか、納期に間に合わなくなったことによる損害は誰が責任をとるのか等、解決するべき問題はたくさんあります。お話合いで解決することができず、最終的に裁判までいってしまうことも少なくありません。
そのような場合には裁判所に対して、取引内容を説明し、どちらの主張が正当であるかを判断してもらうことになります。このとき契約書がなく当事者双方の供述のみでは、その供述の信用性の判断が難しく、裁判所に主張をするのに苦戦をします。しかし契約書が存在していれば、その内容を客観的に裁判所が判断をして、適切な結論を下してくれます。
すなわち、契約書というのは相手方とトラブルになった場合に、契約内容を証明するための重要な証拠になるのです。

契約書はどちらが作成するべき

法律上は、どちらが作成するべきかについて決まりはありません。いずれが作成しても問題はありません
手間だけを考えればお相手が作成してくれた方が楽かもしれません。
しかし、たとえば受注者が契約書作成の手間を省きたいばっかりに発注者が作った無理難題な契約書を受け取ることになってしまい、なおかつ立場上、契約書の訂正を依頼するのも憚られてしまうというようなケースも少なくありません。
したがって、契約書は自社で作成なさることをお勧めいたします

基本的に契約書は、案を作成して、お相手にご意見をいただいたり、手直しをしていただいて完成するという流れが一般的です。
したがって、契約書を作成したからといって、そのまま自社の意向が通るというわけではありません。
しかし、多少の微調整が入ったとしても、大枠の流れから変更されることはそう多くありません。つまり、自社で契約書の枠を作成しておけば、全体的に自社の意向を反映させた契約書を完成させることができる可能性が高くなります
また、お相手が作ったものに対し変更を求めると了承していただけない内容でも、最初からその内容を提示しておくと特に問題にならずにスムーズに契約が成立するというケースもあります。

ビジネス上の重要性がさほど高く無いものや、一般的な雛形を転用すれば済むような内容の場合には手間を省く意味でもお相手に作成を頼むのもいいでしょう。
しかし、そうでは無い場合には、顧問弁護士等の自社をよく知る専門家に契約書作成と依頼するなどして、自社の意向が反映された土台のしっかりした契約書(第1案)を作成することをおすすめいたします。

契約書を締結するにあたって、注意点

上記のとおり、契約書の第1案を作成すれば自社の意向を反映させた契約書を作成することができる可能性が非常に高いです。

しかしながら、契約書を作成するにあたっては、以下の観点にも注意をすることが必要です。

1)両当事者の真摯な協力関係のもとでの契約であること

契約を締結する場合、その契約が長期的なものであっても短期的なものであっても、両当事者が何らかの協力関係になることに違いはありません。そうであれば、一方当事者の恣意的な内容の契約を作成することは当事者間に遺恨を残す可能性があり、トラブルのもととなります。下手をすると契約をすること自体、白紙となってしまうこともあります。

2)権利義務について明確に書くこと

契約をすれば、双方に権利・義務が発生します。
この契約を通じて
・誰にどのような権利が発生するのか
・権利の発生時期はいつか
・誰にどのような義務が発生するのか
・義務の履行時期はいつか

等を細かく記載しておくことが必要です。

3)契約の目的を意識されたものであること

契約をすれば、双方に権利・義務が発生します。この契約によって誰にどのような権利・義務が発生するのかを明記するだけではなく、この契約にはどのようなリスクが発生するのかを考えて、そのリスクをカバーするためにどのような条項を設けるべきかなど考えなければなりません。
これらはあくまでもこの契約がどういう結果発生を目的としてものであるのかを意識しているから、初めて検討することができるものです。
単純にこの製品を売りたいのだという目的だけではなく、「トラブルなく」この製品を売りたいと考えることができれば、売買にともなうトラブルを事前に予測して、予測されるトラブルに対する未然防止策まで契約書内に盛り込むことができます。工事の依頼等でも同じです。単純に建物を作るのではなく、「問題なく」建物の建設を完成させるにはどうすればいいのか、どのタイミングで所有権が移転し、金銭の支払いはどうなるのか、工事中のトラブルはどうするのかなど、たくさんのトラブルを想定し、それに対処するためのマニュアルとしての契約書を作成することが必要となります。
そうした行動によって不測の事態を減らすことができ、事業全体を円滑にすすめることができます。

4)契約文言が第三者でも理解できる内容であること

基本的に契約書は契約当事者間で共有をするものですが、企業間の契約となると「一方の契約当事者」といってもその企業の構成員である複数人が該当します。そして契約締結に関与した人物と契約を履行する当事者が異なることも少なく無い以上、誰が見てもわかる内容にしておくことが大切です。
また社内の人物だけではなく、万が一、裁判に発展した際に、裁判官がその契約書を見るという場面も想定しておくことが必要です。たとえば、自社と相手方との間だけで用いているオリジナル用語があった場合、契約書の中ではその言葉についてしっかりと定義付けをしておかなければ裁判官はその言葉が何を意味するのかわかりません。契約当事者が認識できていれば問題ないと思われるかもしれませんが、そうしたオリジナル用語に対する認識の齟齬が紛争に発展するケースもあります。
したがって、契約書は全く関係のない第三者が見てもわかるような内容で記載することを意識しましょう。

5)法律上記載すべき事項が記載されていること

契約の種類によっては、法律上記載が義務付けられている内容があります。
例えば雇用契約書(または労働条件通知書)の場合には、労働基準法第15条に基づいて、労働契約の期間、賃金、労働時間等を明記しなければなりません。また労働者派遣契約においても、労働者派遣法第26条に基づいて業務内容、期間、就業場所等について定める必要があります。
雇用契約書の明示義務に違反した場合には、労働基準法違反として30万円以下の罰金が課せられる可能性がありますし、労働者派遣法に違反した場合には、派遣元は許可の取消しや業務停止命令、改善命令の対象となることがあります。

6)関連する法律や、判例等はあらかじめリサーチしておくこと

契約を締結する場合、それが法的にはどのような契約類型に分類されるのかその類型に分類された場合、法的にはどのようなことを定めなければならないのかを法務部の方や、顧問弁護士等に依頼してリサーチしておくことが必要です。
最近は「業務委託契約」という名称の契約書が増えてきましたが、法的には業務委託という言葉は存在しません。委任契約なのか、請負契約なのか、あるいは委任と請負を合わせたものなのかをしっかり分類し、それぞれの場合に応じて必要な契約書の内容を精査しておくことが必要になります。また委託者の立場と受託者の立場で注意するポイントも変わってくるので、それぞれの立場に応じて検討が必要になります。

7)一方当事者に不利な内容となっていないこと

時々極端に一方当事者に不利な内容の契約書があります。
これは不利を被っている側が了承していれば問題ない、ともいえますが、不利を被る側ではないとしてもこうした契約書の締結は避けるべきです。
単発的な契約であれば特に問題はおこらないかもしれませんが、長期的な契約関係を結ぶ場合には、一方当事者に不利益な内容の契約はいずれ何らかのトラブルを発生させる原因になります。
契約の内容による不利益は直接被らないかもしれませんが、契約書が引き起こすトラブルに巻き込まれ、結局不利益を被ることになります
自社にだけ有利な契約は一見すると「ラッキー」と思ってしまいがちですが、長い目で見たときには必ずしも有利なものではありません。しっかり、フェアな視点で協力関係に基づいた契約書の作成が必要となります。

8)契約内容の中で矛盾が発生しないこと

契約書の役割は上記のとおり、契約内容を明確化したり、契約後の行動指針にしたりするためです。そうすると内容に矛盾が生じている契約書では、その役割を果たしていません。
また契約書内にとどまらず関連業務との兼ね合いで、いざ契約書通り動いてみると矛盾が生じるという可能性もあります。
こうした矛盾が生じないように契約書を締結する前には、客観的な第三者や現場で働いている方などにその内容を確認してもらうことをお勧めいたします。

契約書は自分で作れる?

契約書を自分で作ること自体は可能です。
しかし、上記のとおり契約書はのちのちの契約関係に大きく影響を与えることになる書面です。自身で作成したとしても、締結するより前には第三者にチェックをしてもらう必要がありますし、できれば顧問弁護士等に相談をし内容を見てもらうことをおすすめいたします。

契約書作り方

下記ではサンプルを用いながら、各項目ごとに簡単なひな形とそれについての解説を行っていきます。

■一般的な構成

1)タイトル(表題)

契約書に表題をつけて、文書の冒頭に記載します。
売買契約書」「雇用契約書」「業務委託契約書」「システム開発業務委託」などというものです。
このタイトルが契約の内容と一致しているかどうかしっかりと確認をしましょう。万が一、このタイトルが契約の内容と一致していなかったとしても契約自体が無効になるとは考えがたいです。
しかしながら、契約当事者間で何らかの意思の不一致がある可能性もありますので、しっかり違和感には対処しておきましょう。

2)前文

株式会社●(以下「甲」という)と○○(以下「乙」という)とは、〜の保守管理について、以下の通りに契約をする。

この前文は必ずなければならないものではありませんが、客観的な第三者が見たときにわかりやすい契約書作成を心がける上では、記載されていると丁寧な印象です。
一般的に略称には「」「」「」「」という十干を上から用いることが多いです。

3)本文・契約条項

第●条(○○)という感じで契約内容ごとに区切って記載をしていきます。
契約書の内容は、どの契約書にも共通して記載することがお勧めされてるいわゆる一般条項と呼ばれるものと、個別の契約書ごとに異なる主要条項の2種類から構成されています。

<一般条項>

第●条(損害賠償)
本契約の当事者が、本契約に定める義務の全部もしくは一部を履行せず、または、本契約に違反して、他の当事者に経済的損害を与えた場合、損害を被った当事者は損害を引き起こした当事者に対して損害賠償を請求することができる。

契約が不履行であったり、不完全であった際に生じた損害について賠償する旨を定めています。この損害賠償については、この契約の中であらかじめその金額に上限を設けたり、あるいは賠償の範囲について制限を設けたりすることがあります。
なお、損害賠償請求自体は民法に定めがあるので、わざわざ契約書に記載をせずとも民法に基づいて損害賠償請求をすること自体は可能です。
それでも契約書に一般条項として広く記載されているのは、金額や範囲に制限を設ける場合のみならず、損害賠償の可能性を明示することによって債務者側に義務の履行を促す心理的効果を狙ってのこととされています。

第●条(不可抗力免責)
地震、津波、台風、暴風雨、洪水その他の天災地変、戦争、暴動、内乱、火災、法令の改廃制定,、公権力による命令処分その他当事者の責めに帰し得ない事由による契約の全部または一部の履行遅滞、履行不能または不完全履行を生じた場合は、当事者はその責に任じない。

当事者の責めに帰さない事由により、当事者の一方または双方の義務が履行できない場合には、過失責任の基本原理から不履行となってしまった当事者はその責任を負うことはないと理解されています。
このような不可抗力による責任が免除される(免責)場合とは、どのような場合なのか、その免責が適用された場合には、その相手方の債務(義務)や残りの契約についてはどのように扱うのかなど、あらかじめ決めておくことが必要です。

第●条(権利義務の譲渡禁止)
本契約当事者は、相手方の事前の書面による承諾なくして本契約に基づく権利を第三者に譲渡し、義務を第三者に引き受けさせることができない。

契約に基づく権利を譲渡するということは、その契約から発生する権利義務を第三者に譲り渡すということなので、実質的には契約当事者が変更することを意味します。
誰と締結しても問題のない契約であれば権利義務が譲渡されても問題はありませんが、大抵の場合には、「この会社だから契約をする」という具合に相手の属性を見て、契約を決めることが多いでしょう。そうした観点から、後日権利義務を譲渡して、契約の実質的当事者が変更されることのないように、この条項を設けておくことが一般化されています。
もちろん、権利義務の譲渡を制限することが適切ではない契約もありますので、締結に先立ってその必要性については今一度検討が必要です。

第●条(契約解除事由)
1.甲及び乙は、相手方が本契約に違反した場合には、相当なる期間を定め、かかる違反の是正を催告し、当該期間内にかかる違反が是正されない場合には、本契約を解除することができる。
2.甲及び乙は、相手方が次の各号の一に該当する場合には、何らの催告その他の手続きを要することなしに、直ちに本契約を解除することができる。
(1) 重大な過失または背信行為があった場合
(2) 手形または小切手につき不渡り処分を受ける等、支払停止状態に至った場合
(3) 差押・仮差押・仮処分を受けた場合
(4) 破産・民事再生・会社更生手続の申立てを受けまたは自らこれを申立てた場合
(5) 解散・合併・減資の決議をした場合
(6) 公租公課の滞納処分を受けた場合
(7) 当事者または当事者の役員が暴力団をはじめとする反社会的勢力であることが判明した場合、あるいは、当事者または当事者の役員と反社会的勢力との関与が明らかになった場合
(8) その他前各号に該当する事由が発生するおそれがあると認められる場合
3.前二項に基づき本契約が解除された場合、解除事由に該当した当事者は、解除権者に対して負担している金銭債務につき、期限の利益を喪失し、直ちに当該債務金額の支払を履行しなくてはならない。
4. 本条の規定は、解除権を行使した当事者による損害賠償請求を妨げないものとする。

契約の解除とは、有効に成立した契約を契約の一方当事者のみの意思表示によって、契約がもともとなかったものとして消滅させる法律行為です。法律によって認められている「法定解除権」と当事者が合意によって決めた「約定解除権」の2つがあります。
上記具体例の1項に記載されているのは法定解除権で、2項は約定解除権にあたります。
損害賠償と同様に解除も民法等の法律に定められているので、わざわざ契約書に記載をすることなく解除を行うことはできます。
しかし法律によって定められている解除だけでは必ずしも明確ではないですし、そもそも解除とは契約を終了させるという大きな効果を発生させるものなので、解除権がどのようなときに発生し、解除の手続きはどのようなもので、解除をするとどのような効果が生じるのかという点について当事者間であらかじめ明確に合意をしておくことが大切です。

第●条(反社会的勢力の排除)
1.   甲及び乙は、以下の事項について表明し、保証するものとする。
①  自己または、自己の役員・使用人・従業員・株主(自己の経営に実質的に関与しているものに限る)・子会社(以下、総称して「対象者」という。)が、暴力団・暴力団員・暴力団に関係する個人または法人その他団体・総会屋・社会運動または人権運動もしくは政治運動等を標榜して市民または企業に不当要求を行う個人または法人その他団体・特殊知能暴力集団・その他反社会的勢力と認められるもの(以下「反社会的勢力」という。)に該当しないこと。
②  反社会的勢力を支援しまたは社会的に非難される関係を有していないこと。
③  自己または対象者が、相手方および相手方の取引先のみならず自己の取引先または第三者に対して、自らまたは第三者を利用し、暴行・脅迫・恐喝・威圧等の暴力的な要求行為、詐欺的な行為、業務を妨害する行為、名誉・信用等を毀損する行為、法的な責任を超えた不当な要求行為、その他これらに準ずる行為を行わないこと。
2.   甲および乙は、相手方またはその対象者が反社会的勢力に該当しないことに関して、甲または乙、もしくはその指定する者が調査を実施する場合、その調査に協力するものとする。
3.   甲または乙は、相手方が本条に違反した場合、何らの催告なく本契約の全部または一部を解除できるものとする。なお、この契約解除は、当該相手方に対する損害賠償の請求を妨げないものとする。
4.   前項による契約解除によって、本条に違反した相手方またはその対象者に損害が発生した場合でも、当該相手方は何らの損害賠償の請求を行うことができないものとする。

多くの企業が、企業倫理として暴力団を始めとする反社会的勢力と一切の関係をもたないことを掲げており、そのためにさまざまな取り組みを進めています。その一環として、こうした条項を契約書に設けることによって契約の相手方においても暴力団等反社会的勢力を排除するように努めています。

第●条(機密保持)
1.   本契約において機密情報とは、本契約に関連して相手方から開示された相手方の技術上、販売上その他一切の業務上の情報とする。
2.   甲および乙は、機密情報を相手方の事前の書面による承諾なしに第三者に開示又は漏洩してはならず、また本契約の履行に必要な範囲を超えて使用・複製してはならない。
3. 次の各号に該当するものについては、機密情報として扱わないものとする。
(1) 開示の時点で既に公知であった情報または開示後受領者の責によらず公知となった情報
(2) 開示前に適法な手段によって取得した情報
(3) 第三者から守秘義務を負わずに取得した情報
(4)  開示された情報によらず受領者が独自に開発した情報
4. 第2項の定めに拘わらず、甲および乙は、法令または裁判所の命令等により、機密情報の開示が求められた場合には、当該要求に従うために必要な限度において、相手方より開示された機密情報を開示することができる。
5. 甲及び乙は、機密情報が不当に第三者に開示もしくは漏洩された事実を知った場合、直ちに相手方に通知するものとする。
6. 本条の定めは、本契約の終了後原則として3年間、個別契約に定めがある場合にはその期間、なお効力を存続するものとする。
7. 甲乙が、本契約と別に機密保持に関する契約を締結している場合は、当該契約の定めは、本条の定めに優先して適用される。

機密保持・秘密保持など名称はさまざまですが、契約によって知り得た情報(機密情報・秘密情報)を外部に漏洩されないようにするための条項です。
契約関係に入ってしまうといずれの契約当事者も秘密情報の開示者になりうるものですから、この条項はできる限り双方に秘密保持義務が課されるような内容にしておきましょう。また、この条項は契約期間が終了しても存続する条項として残しておくように規定しておくことが一般的です。
また、このように契約書の中に記載する場合に限らず、秘密保持契約・機密保持契約(NDA)として本契約に付随して別途契約書を締結する場合もあります。
個人情報についてさらに別途契約情報をもうけたり、あるいは契約書を作成したりすることがあります。

第●条(契約期間)
本契約の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までとする。但し、期間満了の1ヶ月前までに本契約を更新しない旨の書面による申し入れが甲乙のいずれからもなされない場合は、本契約は自動的に1年間更新されるものとし、以降も同様とする。

契約は双方の権利義務について定めるものなので、契約期間を設けることが一般的です。
このとき、秘密保持など一定の条項についてはこの契約期間に拘束されることなく、契約期間が満了しても有効に存続させることが可能です。

第●条(合意管轄)
甲および乙は、本契約に関して紛争が生じた場合には、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

当事者間で紛争が起こった場合にどこの裁判所で裁判を行うか、あらかじめ決めておくことができます。
遠方の当事者と契約をする場合、万が一裁判になった場合には、相手の近くの裁判所まで行かなければならないこともあります。そうならないように可能な限り、自分たちの会社の近くの裁判所を設定しておくようにしましょう。

第●条(協議)
本契約に定めのない事項、本契約中疑義の生じた事項については、両当事者別途協議のうえ、これを決定する。

法的に意味があるものではありませんが、双方の意識付けや認識の共有のために記載することが一般的です。

<主要条項>

各個別契約に定める主要条項については、契約の目的はなにかを考えたうえで、自社の権利・自社の義務・相手の権利・相手の義務という点を明確に意識しながら記載することが大切です。
例えば何かを作成することを依頼する内容の契約であった場合、完成したものの知的財産権はいずれに帰属するのか、帰属するのはどのタイミングかなど、細かな取り決めが非常に大切になります。

4)後書き

本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲、乙各記名押印の上、各1通を保有する。

などど記載して、合意の確認および契約書の通数とその所持者を定めて、書面を締め括ることが一般的です。

5)日付・署名押印

いつ誰が契約を締結したものか明らかにするために、日付署名押印は必要です。

■様式

<契約書が複数枚にわたるとき>

契約書が複数枚にわたるときには、契約書の全ページをまとめて、左側を2箇所ホチキス留します。ホチキスの芯が見えないように左側を製本テープで綴じるとより丁寧です。
また、契約書が複数枚にわたるときには、各ページが連続した書類であることを示すために契印をすることがあります。
何十枚にもおよぶ契約書の場合、各ページごとに契印をするのは非常に面倒なので、表紙と製本テープにまたがって当事者全員が契印を押して足りるとされることもあります。

<割印>

契約書を複数枚作成するときには、各契約書にまたがるように押印をすることで同一の書面であることを示し、偽造や改ざんを防止するという狙いがあり、それを割印といいます。
契印は1つの契約書の中の各ページに行うのに対して、割印は契約書ごとに行うものです。

<署名捺印、記名押印>

署名直筆による自署のことをいい、記名は印字やゴム印など自署以外の方法で名前を記すことをいいます。
署名は筆跡鑑定等によって本人が契約をしたかを証明する重要な証拠になりますが、記名については誰でも作成することができる以上、本人が契約をしたか否かの判断として証拠能力は弱くなります。そのため、重要な契約書においてはできる限り署名の方が望ましいと言えるでしょう。
旧商法32条においては、「署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に変えることができる」と規定されていましたが、この条文は現在削除されています。しかしながら、その削除に伴い会社法や商法の規定が単純に「署名」とされているものが「署名又は記名押印」と変更されているので実質的には、署名の効果は記名押印で得られることができるという解釈は現在もなお存続しています。
つまり署名または記名押印があれば、いずれの場合であっても契約は当事者によって作成されてものと推認することができるということになります。しかし法的証拠能力としてはやはり署名捺印>署名>記名押印という順となるでしょう。
なお、海外では契約書に印鑑を押すという文化がありません。したがって、海外の企業との契約においては、署名を行うようにしましょう。

<印鑑>

契約書の押印に使用する印鑑は実印でしょうか、認印でしょうか、それともシャチハタでたりるのでしょうか。
結論からお伝えすると、どの印鑑を使用しても法的な効力は同じです。では、どの印鑑でも全くの差異がないのかといえば、それは違います。
契約書を偽造された場合を想定してみましょう。相手方が持っている契約書には確かにあなたの名前と印鑑が押されています。しかし、あなたはこの契約書を締結したことについて全く身に覚えがなく、契約書が偽造されているのだ、と主張している場面です。
このとき、契約書におされている印鑑が実印か、認印かシャチハタかによって、契約書が偽造だというあなたの主張の信用性が左右されることになるのです。
具体的にはシャチハタは誰でも全く同じものを入手することができる印鑑です。したがって、契約書にシャチハタで押されている場合には、その契約書が偽造された可能性が高くなります。他方、実印を使用されている場合には、実印を有しているのは通常本人のみであろうと推測されるので、あなたが実印を貸し出した、あるいは実印が盗まれた等の事情を証明することができない限りには契約書はあなたが締結した本物であると認定される可能性が高いといえます。
一般的には、シャチハタ<認印<実印 の順に契約書の信用性が高くなるとされています。

<電子契約>

近年電子契約による契約締結も広まり始めました。これについては、電子署名の有効性等の面から課題はまだありますが、リモートワークも増えてきた中で、この方法による契約締結手続きは非常に利便性が高いものです。また電子締結の契約書には印紙が不要とされているので、経済的なメリットも見逃せません。
今後ますます注目を集めていくものと言えます。

<収入印紙>

契約書の中には、印紙税の対象となるものがあり、それに該当する場合には、契約書に収入印紙の貼付が必要となります。

主な課税文書は

  1. 不動産の譲渡に関する契約書
  2. 土地の賃借権設定に関する契約書
  3. 消費貸借に関する契約書
  4. 請負に関する契約書
  5. 約束手形または為替手形
  6. 営業に関する受取書(領収書)

です。詳しくは国税庁のHPを確認しましょう。

なお、印紙税法では、書類1通ごとに印紙を貼ることが定められていますので、当事者双方が保管するために契約書を2通作成した場合には、それぞれの契約書に印紙を貼ることが必要になります。
印紙を貼らなければならない契約書に印紙を貼っていないことが税務調査等で明らかになった場合には、本来の印紙税額の3倍が徴収されることがあります

契約書のひな形資料ダウンロードページ(PDF)はこちら
※顧問契約をいただいている会社様には、Wordデータのお渡しも行っております。

弁護士に作成を依頼するメリット

契約書は上記のとおり、自社で作成することは可能です。
しかし、契約書を作成する意味(上記「契約書はなぜ必要」参照)を考えると、弁護士に依頼することも選択肢の一つにすることがおすすめです。

1)客観的な視点

契約の内容は契約当事者が一番把握することができていると考えがちですが、必ずしもそうではありません。契約当事者はどうしても目先の問題に囚われてしまい、客観的に契約内容を検討することが難しい立場にいます。
したがって、契約当事者として交渉の場に望んでいる人物がどれだけ法的知識がある者であったとしても、客観的な視点で契約書の作成に望むことができる弁護士に依頼することは、結果として紛争の未然予防に役立つことになります

2)合意内容の的確な文書化

契約書の雛形自体はインターネットを検索すればたくさん出てきます。しかし、全く同じ契約はなかなか存在しないのであって、雛形はあくまでも雛形にすぎません。そもそもどの雛形を使えばいいのか、というところから悩むことも少なくありません。また、一般条項については引用することができますが、主要条項については引用することが難しいという場合がほとんどです。こうした雛形によるテンプレート機能を多様しすぎると実態にそぐわない内容の契約書が完成することがとても多いのです。
契約書は当事者の合意内容の確認や今後の活動指針的役割を果たすものであることはすでにお伝えしたとおりです。そうであるならば、契約書に当事者の合意内容を正確に反映していなければ作成する意味がありません。
この点については、弁護士に依頼することで当事者の合意内容を法的に再構築し、正確に契約書の中に落とし込むことができます
さらに、弁護士が契約書を作成する中で、取り決めとして不足している点や気をつけるべきリスクについてもアドバイスをすることがほとんどですから、結果として紛争の未然防止にも役立ちます

3)法律との整合性

契約書の作成においては、関係法令をリサーチする必要があります。法律上必要な記載項目は漏れていないか、法令に違反するような契約内容になっていないかなど、法的観点から再度見直すことが必要です
弁護士に作成を依頼することによってこの点をカバーすることが可能になります。

他方で、弁護士に依頼することによるデメリットとしては費用がかかる時間がかかるなどがあげられるでしょう。

紛争の未然防止という大きなメリットの享受と引き換えに多少のコストは許せたとしても、合意の内容やあなたの思い等をしっかり弁護士に伝えておかなければ費用を払って契約書作成を依頼した意味がなくなってしまいます。日頃から意思疎通のとれている顧問弁護士等に依頼することによって、そうしたデメリットも多少は緩和されるかもしれません

民法改正による契約書の変更

2020年4月1日施行の民法改正によって、解除や債務不履行、危険負担等に関する規定が大きく変更されました。
契約書の作成の際に、インターネット上の雛形を用いることを予定している場合には、古いものを使っていないか、今一度チェックをすることが必要となります。
従来の契約についても更新のタイミングでこうした改正民法に対応するように変更をするなど、対応していくことも大切になります。
上記ひな形ダウンロードページには民法改正対応済みのものを掲載しています。掲載資料データについては、上記ページをご確認ください。

顧問契約のメリット

契約書の作成・レビューについては弁護士に依頼する重要性が非常に高いものです。
しかしながら、その反面、弁護士と円滑な意思疎通を図ることができなかった場合、契約書の作成でも会社の意思を反映することができなかったり、会社にとってのデメリットが伝わりきらなかったりして、弁護士に依頼する意味がなくなってしまう可能性があります。
顧問契約によって顧問弁護士をつけておき、日常的に意思疎通をはかっておくことによって、有事の際に(契約書作成に限らず)円滑なコミュニケーションを行うことができ、紛争の解決がより容易になることが多く、さらにストレスを軽減することもできます
そのためにも顧問弁護士を選ぶ際には、弁護士の雰囲気等も含め気軽に連絡をすることができるか、密なコミュニケーションをとることができそうかなどを基準の1つとしておくことはとても大切です。WEBなどの文字だけではわからないこともありますので、実際に法律事務所に行って弁護士と会ってみたり、オンライン等で面談をするなどしてコミュニケーションをはかってみてから契約をするといいかもしれませんね。

さいごに

契約書の大切さについて解説いたしました。
ビジネスにおいて契約書は必須のアイテムです。むろん、ビジネスの場面に限らず日常生活においても、契約書は大切です。
何気なく署名をしてしまったり、署名をしたあと放置してしまうのではなく、締結をする前にはその内容においてリスクの有無等について第三者も交えてしっかりと検討をすることが大切ですし、締結後にはそのプロジェクト管理の一環としてそれに関わる社員間で定期的に内容を確認しておくことが大切です。
防ぐことができる紛争は未然に防ぐことで、より充実したビジネスライフを送ることができるようになると素敵ですね。

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